コロナショックによる深刻な経済的打撃を受けて、各国で巨額の経済対策が打ち出されている。その中で生活支援や失業対策ばかりが注目されるが、見逃してはならない動きがある。3月下旬、欧米各国では「対内投資規制の強化」と「国家ファンドの設立・強化」という企業の買収防衛策が相次いだ。コロナショックによる株価急落によって重要企業が外国企業に買収されるリスクを警戒したものだ。特に中国系ファンドへの警戒が高まっている。
●欧米で相次ぐ重要企業防衛策
対内投資規制については、欧州委員会が欧州連合(EU)加盟国に対して強化を要請し、豪州も緊急に強化した。
注目すべきはドイツ、米国による国家ファンドの設立や強化だ。いずれもこれまでの厳格な対内投資規制に加え、自国の重要企業が買収されるのを阻止するために国家ファンドを活用しようとしている。
ドイツは6000億ユーロ(約72兆円)規模の経済安定化基金を設立した。そのうち1000億ユーロ(約12兆円)は重要技術や重要インフラの関連企業を守るために特定企業の資本増強に使われる。
米国も為替安定化基金に5000億ドル(約55兆円)を追加して、特定企業支援としてボーイング社の救済のみならず国家安全保障上重要な産業に対しても出融資する。
●目先の対処に終始する日本の緊急対策
翻って日本はどうか。今、緊急経済対策策定の大詰めを迎えている。焦点は中小企業の資金繰り対策と生活支援の現金給付だ。もちろんこれは急を要する。しかし、目先の問題にしか目が行かないのは問題だ。株価急落の結果、安全保障に関わる日本企業も体力が弱まり、企業買収の格好のターゲットとなる危険がある。
さらに、緊急経済対策ではサプライチェーン(部品供給網)の国内への回帰を支援する。中国依存リスクを減らすことは重要だ。しかし産業を限定せず、医薬品や半導体といった戦略的な産業に焦点を当てたものではない。しかも補助金、税の優遇といった旧来型のコスト優遇策だけだ。ないよりはあった方がいいが、これでは限界がある。
大企業支援へ出資枠を設けるとの報道もあったが、需要が急減した航空会社に対する支援で、たかだか1000億円規模では意味がない。諸外国の動きを見据えて、対象も規模も戦略的に考えるべきだ。
米中対立の中で経済と安全保障が一体化する時代に入ったが、新型コロナウイルスの大流行がそうした流れを加速している。欧米各国が安全保障上重要な産業を自国内に確保することに躍起となっている中で、日本ももっと危機感を持つべきだ。
昨年秋の外為法の改正による対内投資規制の強化でやっと欧米並みにキャッチアップしたのはよかったが、それだけでは不十分だ。日本も早急に国家ファンドを創設して戦略的に取り組むべきだ。これこそ今月発足した国家安全保障局の経済班の重要な任務ではないだろうか。(了)