米中対立が激化する中で、日本の経済界の安全保障意識が懸念される。もちろん巨大な中国市場のビジネスチャンスは無視できない。しかし、同時に安全保障リスクを頭に置かなければ、米国の虎の尾を踏むことにもなりかねない。
2018年8月、米国は2019年度国防権限法で、ファーウェイ(華為技術)など中国企業5社を安全保障上の懸念により政府調達から排除した。その秋、驚くことが起こった。日本の経済界代表の訪中団が企業訪問をした先が、5社の一つである監視カメラのハイクビジョン(海康威視)であった。日本のメディアがファーウェイばかり報道していたとはいえ、あまりにも無頓着だ。
●危うさ潜む金融界の中国企業支援
今、米国による対中制裁は金融分野にまで広がろうとしている。香港の国家安全維持法施行を受けた対中制裁法案では、制裁対象の中国当局者と取引する金融機関も制裁の対象となる。また先般、米国防総省は「中国軍に所有または管理されている」中国企業20社を公表したが、これらに対しては今後金融制裁が科される可能性も指摘されている。こうした中で、日本の経済界のうち金融界の安全保障感覚も気がかりだ。
中国は対外開放の姿勢を見せるために、金融分野での外資規制の緩和を打ち出している。これに関連して、日本のメガバンクは中国のスタートアップ企業(新興企業)を支援するプロジェクトを立ち上げている。これは中国のスタートアップ企業と日本の大企業を結び付けることにも寄与するという。
しかし、そこに安全保障のリスクが潜んでいることをどこまで認識しているか疑問だ。金融部門での外資開放に釣られて、結果的に安全保障上懸念する企業に資金供給をしてしまうリスクに対処しているだろうか。
●必要な「軍民融合」への警戒
米国は中国の軍民融合への警戒を呼びかけ、民生と軍事の境界が曖昧になったと言って注意喚起をしている。そうした中で日本企業が通り一遍の調査で民生用途だと判断して投資することで、結果的に軍民融合への支援・貢献とならないような注意深さが必要だ。
また、米国の資本市場から中国企業を排除する動きが目立っているが、これを受けて東京証券取引所が中国企業の新規上場を誘致しようとしている。まさに「漁夫の利」と米国から見られるリスクをどう考えているのだろうか。
少なくとも中国の軍民融合に目配りをする仕組みも組み込んでいるといった説明ができるようにしておくべきだろう。
いずれも、経営トップにおける安全保障に対する意識改革が不可欠だ。(了)