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アルビンド グプタ

【第727回・特別寄稿】インドは日米豪印対話の漸進的進化に賛成する

アルビンド グプタ / 2020.10.19 (月)


ビベカナンダ国際財団所長 アルビンド・グプタ

 

 10月6日の東京での日米豪印4カ国外相会議は、インド北西部のラダック地区で中印両軍が対峙する中で開かれただけに、インドで大きな関心を呼んだ。9月のモスクワでの中印外相会談や軍団司令官レベルの数次にわたる協議にもかかわらず、中印両軍の対峙は続き、両国間の緊張は高まっている。
 以前と同様に、4カ国外相は共同声明ではなく、個別に声明を出すことを選んだ。これは、日米豪印安全保障対話(クアッド)の目的を明確に定義することへの一定のためらいと用心深さを示す。米国のポンペオ国務長官を例外として、他の3外相は公開発言で中国に言及しなかった。

 ●神経とがらす中国
 インドのジャイシャンカル外相の発言はいつも通りの表現だった。すなわち「自由で開かれた包摂的なインド太平洋」を維持すると表明し、「法の支配、透明性、国際海域における航行の自由、領土保全と主権の尊重、紛争の平和的解決に裏打ちされた、ルールに基づく国際秩序を守る」と誓約した。中国はこれらの原則をいつも破っている。従って、同外相の発言には、名指しを避けながらも中国への間接的なメッセージが盛り込まれていた。
 中国はこれまでクアッドを侮ってきたものの、今では非常に煙たがっており、4カ国外相会議への不快感を隠さなかった。中国メディアはクアッドを北大西洋条約機構(NATO)になぞらえ始めた。中国は4カ国が経済力、技術力、軍事力で中国を大きく上回ることを知っている。将来、クアッドが他の諸国とも関わりを持ち、「クアッド・プラス」となる可能性があることは、中国を大いに不安がらせるだろう。
 インドと米国の防衛協力は急速に強まっている。米印は今月中に外相、国防相級の「2プラス2」協議を開く。両国の防衛協力を一層強固にする「地理空間情報の基礎的交換に関する協力協定」(BECA)も調印されそうだ。日印の防衛協力も進展し、最近は物品役務相互提供協定(ACSA)が結ばれた。これらの動きは特定の国に対して向けられたものではないが、中国は神経をとがらせながら状況を見詰めている。

 ●4カ国対話の制度化に賛否両論
 インドでは、クアッドを制度化すべきかどうかをめぐって意見が割れている。クアッドを正式な機構にすることに賛成論がある一方で、クアッドの柔軟な仕組みを保ち、各国が同盟の規律のようなものに従う必要なく国益を追求できることにもメリットがあるという見方もある。
 インドは、独立した外交政策と戦略的自律性を維持することに敏感だ。インド世論は軍事的な「同盟」という言葉をすんなりとは受け入れないが、安全保障上の意味をたくさん含むパートナー国との戦略的協力は気にしない。中国の台頭の不愉快な結果により、インドは防衛・安全保障分野でパートナー関係を築くことへの迷いのいくらかをためらいがちに克服しつつある。インドはクアッドの確かな潜在力を承知しており、クアッドが漸進的に進化することに賛成である。(了)