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ブラーマ チェラニー

【第728回・特別寄稿】インドが日米豪印対話の方向性を決める

ブラーマ チェラニー / 2020.10.19 (月)


インド政策研究センター教授 ブラーマ・チェラニー

 

 日米豪印4カ国の安全保障対話(クアッド)が中国の強権的な政策と侵略的な行動に応じて進化しつつある。最近の東京での4カ国外相会議が明確に示したように、インド太平洋の弱い多国間安全保障構造の強化に役立てるため、4カ国がクアッドを正式な機構にする方向へ動きつつある。
 クアッドは具体的な安全保障体制へ変化するだろうか。日米豪は既に2国間や3国間の同盟関係を結んでいる。そのため、成否はクアッドの枠内で戦略的協力を行う用意がインドにあるかどうかにかかってくる。
 
 ●戦略的協力へのためらい
 インドが従来ためらいがちだったのには、幾つか理由がある。第一に、第2次世界大戦後、クアッドのメンバーで中国の軍事侵攻に直面したのはインドだけだ。毛沢東が起こした1962年の戦争の結果、インドは領土の一部を奪われた。
 第二に、クアッドのメンバーで中国と陸で国境を接するのはインドだけで、そのためインドは中国の直接の軍事的圧力を受けやすい。中国は、非友好的と見なすインドの政治的、外交的動きに応えて、軍事的圧力を強めるのをいとわない。そこでインドは、中国と海を隔てる日本よりも、中国への地理的近さを気にせざるを得ない。実のところ、「自由で開かれたインド太平洋」戦略や日米豪の主たる関心が海にあるのに対し、インドの軍事的脅威は陸が中心なのだ。
 第三に、インドは、頼れる友好国として米国を当てにできるのか疑ってきた。米国は同盟国に対する条約上の義務さえ無視してきた実績がある。2012年6月、中国がフィリピンから係争地スカボロー礁を奪っても米国は沈黙したが、そのことで中国は大胆になり、南シナ海での人工島建設に着手した。
 第四に、インドがクアッドに慎重といっても、中国の核・ミサイル不拡散約束に対する違反、不公正な貿易慣行、国連安保理改革の妨害、「一帯一路」の新帝国主義的野望など、中国の悪事を4カ国の中で最もしつこく暴いてきたのはインドである。中国が主催する一帯一路の国際サミットをいつもボイコットしてきたのはクアッドのメンバーでインドだけだ。クアッドの他のメンバーは中国との関係改善を模索することによって両面作戦を取っている、とインドは考えた。
 第五に、インドは中国の軍事侵略に単独で立ち向かわねばならない。日本や豪州と違ってインドは米国の安全保障の傘に入っていない。実際、インドは現在ヒマラヤ地方で中国の領土侵略に直面している。
 
 ●安保体制への転換可能性高まる
 中国の領土侵略はインドの姿勢硬化を引き出し、クアッドが協議・調整のメカニズムから実体のある安全保障体制へ転換する可能性をかつてないほど高めた。
 クアッドのメンバー間の協力は今や戦略的な重要性を増しつつある。例えば、インドは先月、日本と物品役務相互提供協定(ACSA)を結んだことで、クアッドのメンバー全てとこの種の協定を持つことになった。クアッドのメンバーは共同防衛活動を強化し、軍の相互運用性を築きつつある。これはインド太平洋の平和と安全に寄与する。(了)