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細川昌彦

【第737回・特別版】バイデン政権と「グリーン」で戦略的協力を

細川昌彦 / 2020.11.09 (月)


国基研企画委員・明星大学教授 細川昌彦

 

 米大統領選でバイデン氏の当選が確実になった。バイデン政権における日本の対米戦略を考えるうえで、カギの一つは環境問題だ。バイデン氏は2050年までの温室効果ガス排出量実質ゼロを打ち出し、地球温暖化対策を目玉政策としている。具体的には、気候変動パリ協定に早期に復帰したうえで、クリーンエネルギーへの投資と環境規制の強化に力点を置く。

 ●警戒すべき米中連携
 クリーンエネルギーへの投資について、バイデン氏はクリーンエネルギーの振興とインフラ整備に4年間で2兆ドルを投資する方針で、雇用や経済成長を生み出す狙いだ。その一環で蓄電池などクリーンエネルギーの技術開発に力を注ぐ。
 欧州連合(EU)も昨年12月、今後10年のうちに官民で少なくとも1兆ユーロの投資を行う「欧州グリーンディール」を発表している。
 日本もこうした動きに取り残されまいと躍起だ。
 10月末、菅義偉首相が所信表明演説で「2050年までに温室効果ガスの排出を実質的にゼロにする」との方針を表明した。昨年表明したEUに続き、バイデン政権の発足に備えて、日本が国際的に孤立するのを回避する狙いだ。
 そして、その具体的対策として今後、次世代型の電池開発などを強力に支援する方針で、イノベーションにつながる成長戦略をめざす。これはバイデン政権の動きに呼応して、日米協力にもっていく布石となる。
 実は中国の動きにも注意を払う必要がある。この分野でバイデン政権が中国と手を握る可能性もある。バイデン陣営からは「地球温暖化問題で中国はパートナーになり得る」との発言もあるのだ。中国もこれを米国の対中強硬姿勢を軟化させる突破口にしようとの思惑もあるようだ。
 こうした中で、日本が米国との協力をどう打ち出すかは、中国をにらんだ安全保障問題にも直結する。

 ●環境規制で国際ルール作りを
 環境規制について、バイデン氏はトランプ政権で緩和された自動車と発電所の排ガス規制を強化する。日本の自動車メーカーの米国戦略も大きな見直しが必要となる。
 注意を要するのが貿易政策への影響だ。相手国の環境規制が不十分だと、それを貿易政策に使うことも考えられるのだ。トランプ政権においては「安全保障」を理由に高関税を課した。バイデン政権では「環境」を理由にした貿易政策が要注意だ。
 EUは7月、環境規制の緩い国からの輸入品に事実上の関税を課す「国境炭素税」の導入を打ち出して、日本企業への影響も懸念される。トランプ政権はこうしたEUの方針に猛反発したが、バイデン政権ではどうだろうか。むしろ環境規制の強化で負担増になる米国企業の不満解消のために、同様の措置を導入する可能性もある。
 日本も油断は禁物だ。むしろ日米欧など有志国での国際ルール作りに持っていくのが得策だ。結果として環境規制の緩い中国製品が共通のターゲットになるのではないだろうか。
 バイデン政権での環境問題も日本は単に受け身ではなく、中国を念頭においた戦略的な思考が必要だ。(了)