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今週の直言

有元隆志

【第738回】尖閣確保へ日本版「三戦」を

有元隆志 / 2020.11.16 (月)


産経新聞正論調査室長兼月刊「正論」発行人 有元隆志

 

 中国海警局の公船の度重なる周辺海域侵入によって尖閣諸島(沖縄県石垣市)が危険にさらされている。尖閣の実効支配を確たるものにするため、見習うべき国がある。ほかならぬ中国である。中国共産党は2003年に人民解放軍政治工作条例を改正し、世論戦、心理戦、法律戦の「三戦」による戦術で敵の力を削ぐよう指示している。日本版「三戦」で、攻勢を強める中国に対抗すべきだろう。

 ●バイデン氏「安保条約5条適用」
 まず心理戦。菅義偉首相は米大統領選で勝利宣言をしたバイデン前副大統領と12日に電話会談を行った。会談後、菅首相はバイデン氏が尖閣諸島について、米国による日本防衛義務を定めた日米安保条約第5条の適用範囲であるとの見解を示したと発表した。尖閣への5条適用は菅首相側から持ち出し、バイデン氏が応じた。対中融和が懸念されるバイデン氏だが、次期政権になっても尖閣防衛意志は変わらないことを明確にしたことで、中国に対する心理的な圧力になる。
 ただ、それだけでは足りない。日本固有の領土が中国によって脅かされていることをこれまで以上に国際世論に訴え、中国の行動の不当性を国際社会に認識してもらうという世論戦を強化すべきだろう。
 そして法律戦。日本政府が米国の大統領から尖閣諸島への安保条約適用の言質を取ろうとしてきた努力は認めるが、いつまでも言葉だけの保証に頼るわけにはいかない。そのためには日本の自助努力が必要で、その第一歩が法律戦だ。
 中国は10月末の全国人民代表大会(全人代)で国防法改正案を提示した。「経済的利益が脅かされる場合」にも戦争に踏み切るとの宣言だ。併せて海警局の権限を強化する法案も発表した。中国は法律戦を着々と実行している。
 中国が尖閣を奪う場合は軍の特殊部隊が日本側の警戒の隙をついて上陸するとみられる。こうした場合は自衛隊の防衛出動を発令しづらいのが現状である。自衛隊が迅速に行動するためにも法整備や政府の対応方針の策定が必要である。

 ●実効支配強化へ上陸をためらうな
 自民党国会議員の有志が尖閣諸島の動植物の生態系調査を可能にする議員立法を準備している。政府も生態系の調査に乗り出そうとしているが、上陸はせず衛星を利用した調査にとどまるという。それでは実効支配を強めることにならない。政府はこれまで中国側を刺激しないようにと上陸を避けてきた。その結果が中国公船による相次ぐ尖閣周辺海域への侵入と居座りである。
 第2次安倍晋三政権が誕生した後、尖閣の状況にいち早く危機感を覚え、海上保安庁と海上自衛隊の意思疎通を円滑にしようと努めたのが当時官房長官だった菅首相である。その結果、2013年4月に閣議決定した「海洋基本計画」で、海上自衛隊と海上保安庁が連携し迅速に情報共有を図ることを打ち出すなど、警戒監視体制は整備されてきた。もっとも、組織間の協力が希薄な「縦割り」の弊害はそう簡単に是正されるものではない。菅首相に求められているのは、実効支配の確保である。単なるポーズではない。(了)
 

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