韓国は中国に引き寄せられ、大陸国家に回帰するのか。建国以来、韓国は自由民主国家として米国との軍事同盟で安全保障を強固にし、日本との友好関係を拡大しつつ、経済成長を遂げた。北朝鮮という存在が大陸との関係を遮断したため、海洋国家の一員となって発展したと言える。ところが、文在寅政権になって、韓国の立ち位置が変わった。
バイデン米新大統領の就任直後の1月26日、文在寅大統領は中国の習近平国家主席と電話会談を行い、中国共産党成立100周年にお祝いの言葉を述べた。バイデン大統領との電話会談は2月4日だった。2月14日の旧正月、文大統領はSNSで近隣諸国へ新年のメッセージを発信したが、韓国語、英語、中国語だけで、日本語はなかった。
●日本の歴史認識に軍が対処
2月2日に公表された韓国の国防白書を読んで、文政権下の韓国がどこへ進もうとしているのかがよく分かった。国防白書は2年ごとに出される。2年前の白書で「同伴者」としていた日本を、今回は「隣国」と表現した。その上で、日本との国防関係発展の障害として、①一部政治家の歪曲した歴史認識②竹島(白書では「独島」と表記)に対する領有権主張③韓国艦船への自衛隊哨戒機の「威嚇」飛行と「事実をごまかした一方的なメディア発表」④対韓輸出管理―を列挙した。
さらに、「日本の歴史歪曲、竹島に対する不当な領有権主張、懸案問題での一方的かつ恣意的な措置に対しては、今後も断固厳しく対処する。一方、共通の安保懸案については、朝鮮半島と北東アジアの平和と安定のため、継続的に協力していく」と記した。他国の歴史認識について軍として対処するという、一線を越えた記述だ。また、白書には竹島上空で韓国空軍機が演習する大きな写真も掲載されている。
●中国は「戦略的協力同伴者」
北朝鮮に対しては前回に続き「敵」という位置づけを落とした。北朝鮮は1995年から2000年まで「主敵」とされていたが、金大中政権がその記述を落とした。2010年に李明博政権が「北の政権と北の軍は敵」との表現で「敵」を復活させた。文政権になってそれが消えた。それどころか、「わが軍は韓国の主権、国土、国民、財産を脅かし、侵害する勢力をわれわれの敵と見なす」として、日本も敵と見なし得る表現となっている。
中国に対しては批判を一切行わず、「戦略的協力同伴者関係」とされ、国防協力が順調に進んでいることが強調された。
このような各国についての記述は国防協力の章にあるのだが、まず中国との良好な関係が書かれ、その次に日本との対立的関係が書かれている。その後ろにはロシア、東南アジア、インド、中東などとの関係を取り上げているが、対立的な記述は一切ない。つまり韓国軍にとって協力への障害があるのは、世界で日本だけと国防白書は言っているのだ。
文在寅政権下の韓国軍が、北朝鮮は敵でない、日本は同伴者でなくただの隣国、中国は「戦略的協力同伴者」と見ていることの意味を、我々は軽視してはならない。(了)