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田久保忠衛

【第785回】米に軍事貢献の約束、問われる日本の実行

田久保忠衛 / 2021.04.19 (月)


国基研副理事長・杏林大学名誉教授 田久保忠衛

 

 日米首脳会談についての各紙論調は出尽くした感があるが、一言でその意義を表現すると、米国の対中政策の中で日本がより重要な役目を果たす約束をバイデン政権は取り付けたことにある。日本政府は「約束」だけでなく、「実行」の段階に移行する。志ある政治家なら、この機会をとらえて日本を一人前の国家にする絶好の機会とすべきではないか。
 共同声明の中に「日本は同盟及び地域の安全保障を一層強化するために自らの防衛力を強化することを決意した」「(日米両国は)在日米軍駐留経費負担に関する有意義な多年度の合意を妥結することを決意した」との表現がある。自国の防衛だから、その強化は別に不思議でないが、国際的な軍事貢献にアレルギーを示してきた日本としては思い切った意見を表明したと思う。

 ●自民内にためらいも
 日米二国間に限定した安全保障の議論として米民主党の中には、日本を軍事的に強くしてはいけないとのいわゆるウィーク・ジャパン派が存在していたが、軍事、政治、経済、先端技術、イデオロギーの全ての分野で米国の前に立ち塞がる中国に対して、日本をアジアで重要なプレーヤーに仕立て上げざるを得なかったと考えてよかろう。菅義偉首相は大きな決断をしたと評価していい。
 問題はこれからの実行だ。中国が2月1日施行の海警法で「(中国の主権や管轄権の侵害に対して)武器の使用を含む一切の必要措置を取ることができる」と定めたことで、与党内に危機感が盛り上がった。ところが海上保安庁法改正によって対応すべしとの自民党国防部会案が海保を所管する国土交通部会の反対で通らず、「必要があれば法整備も検討する」という訳の分からぬ結論になった。
 たまたま3月16日に東京で開かれた日米外務・防衛担当閣僚による安全保障委員会(2プラス2)が尖閣防衛に安保条約第5条を適用することを確認し、これが日米首脳会談のたたき台になることは推定できた。これで尖閣の危機は去ったと思い込んでしまったのだろうか。国土交通部会には相も変わらず中国を挑発することへの懸念が存在していたようだ。

 ●ハードル高い日米共同作戦
 台湾有事の際に日本政府はいかなる行動に出るのか。有事の内容にもよるが、安全保障関連法の「重要影響事態」に当たるとして米軍の後方支援に徹するつもりか。米軍との共同行動に入る場合に、自衛隊は米軍と同じ作戦が可能かどうか。
 心配なのは政治家と自衛隊の関係だ。1995年の阪神淡路大震災の際には革新首長が自衛隊の出動を要請しなかったかと思えば、災害時だけでなく、降雪による交通渋滞で自衛隊に飲料水を配らせるなど気軽に出動を要請する。吉田茂元首相は1961年の著書「世界と日本」で、「災害出動は自衛隊に任務の一つではあっても、それは決して自衛隊存在理由の本筋ではない」と既に警告している。政軍関係のすっきりしていない日本にとって、自衛隊を外国の軍隊と共に行動させるのは容易ならざる事と考えなければならない。(了)