公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

細川昌彦

【第786回】テンセント問題が迫る楽天と政府の対応

細川昌彦 / 2021.04.26 (月)


国基研企画委員・明星大学教授 細川昌彦

 

 楽天に対する中国IT大手テンセントの子会社からの出資について、3月の発表直後から2度にわたって本欄で経済安全保障にかかわる懸念を指摘してきた。そうした懸念の声を意識してか、楽天はこの件の説明を大きく変えて、懸念払しょくに躍起になっている。政府も対応を迫られ、最近になって「監視」していく方針が報道されている。しかし、これで懸念が解消されたとは到底言えない。楽天にも政府にも大きな課題がある。

 ●楽天は説明責任を果たせ
 3月の記者会見では、楽天はテンセントとの戦略的提携を前向きに協議する旨、語っていた。ところが、テンセントとの提携で個人情報の扱いの懸念を指摘されると一変した。「テンセントからの出資は(提携事業などは伴わない)純投資なので問題ない」と説明し始めたのだ。これでは二枚舌と言われても仕方がない。
 投資会社ではないテンセントが、事業での協業などの見返りもなく純投資だけで657億円も払うとは常識的には考えにくい。楽天は納得できる説明をすべきだろう。
 3月30日、楽天の株主総会が開かれた。当然、テンセントによる出資についてどう説明するのかが注目された。ところが、わずか38分で終了、質問はたった3問で打ち切られ、一言も説明はなかった。これで説明責任を果たしていると言えるだろうか。

 ●外為法規制を再度見直せ
 政府も対応を迫られた。外為法を改正して投資規制を強化したはずだったが、今回のテンセントによる楽天への出資は「審査付きの事前届け出」が免除されてしまった。
 テンセントは米国から個人情報が中国政府に流出する懸念が持たれた中国企業だ。楽天は通信事業や個人情報を扱うなど安全保障上重要な事業を行っている。そうした企業がテンセントからの出資を受け入れる重大案件まで審査付きの事前届け出を免除されてしまうのでは、何のための規制強化だったのか。
 すると4月20日になって突然飛び出したのが、「日米、楽天を共同監視、中国への情報流出を警戒」との報道だ。日本政府が外為法に基づいて楽天から定期的に「聞き取り調査」を行い、米当局と内容を共有するという。
 もちろん現行制度でやれることは最大限やるべきだ。審査付き事前届け出を免除されても、事後での届け出や必要に応じて報告を徴収して、懸念がないかをチェックする努力はすべきだ。しかし、残念ながらこれには限界がある。問題ないよう対処するとアピールするために「監視」と言うのはいかにも言い過ぎだ。インテリジェンス(諜報)の機能もなくて、どうして意味ある監視ができるのか。
 日本政府は外為法改正時に「これで米国とそん色ない規制になった」と胸を張った手前、ザル法との批判を回避したいのだろう。しかし、むしろ制度の不備を率直に認めて、早急に穴をふさぐべきだろう。そして、米国からも投資規制の信頼性に疑念を持たれないようにすべきだ。(了)