公益財団法人 国家基本問題研究所
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奈良林直

【第787回】温室効果ガス46%削減目標に思う

奈良林直 / 2021.04.26 (月)


国基研理事・東京工業大学特任教授 奈良林直

 

 菅義偉首相は4月22日の気候変動サミットのオンライン出席を前に、2030年度の温室効果ガス排出量を2013年度比で46%削減する目標を表明した。一方、米国は18日、米中高官級協議を経て、米中両国が国際的な地球温暖化対策に加わり、気候変動パリ協定の目標達成に取り組む共同声明を発表した。中国を温暖化対策の仲間に引き入れ、世界最大の温室効果ガス排出国である中国の太陽光・風力発電設備、石炭火力発電所輸出などによる「独り勝ち」を防ぐ戦略を明確にした。

 ●日本の削減の世界的効果は限られる
 温室効果ガスの代表である二酸化炭素(CO2)の排出量の世界全体に占める割合は、中国が断然トップの28%で、米国15%が続く。我が国は3.4%に過ぎない。たとえ日本が菅首相の発表通り排出量を46%削減しても、世界全体では1.6%減の貢献にしかならない。
 むしろCO2排出量が従来型の石炭火力発電所に比べて17%少ない我が国の高効率火力発電所を開発途上国などに輸出する方が、世界のCO2削減への貢献は大きくなる。
 2011年の東京電力福島第一原子力発電所の事故以降、我が国は実質的に脱原発政策を実行した。50基あった原発は現在4基しか稼働していない。国民が電力料金の一部として支払っている再生可能エネルギー発電促進賦課金(再エネ賦課金)などから太陽光発電に90兆円が投資されることになっているが、発電量100万kW(キロワット)の原発62基分に相当する62GW(ギガワット)の太陽光パネルを世界一の密度で日本全土に敷き詰めたのに、我が国のCO2排出量は4%しか減っていない。日照時間が日中に限られ、晴天率が約50%の我が国では、発電能力の13%くらいしか発電できていないからだ。仮に日本中の家の屋根に太陽光パネルの設置を義務付けても、新築以外は設置工事が困難で、焼け石に水だ。
 今後、政府は風力発電に力を入れると言うが、福島県沖の大型風力発電所は撤去された。メーカーの三菱重工の製品性能が低かったからではない。強い風が吹かないからだ。我が国では、北海道の日本海沿岸にしか強い風の吹く地域がない。ここでさえ風の強さや強い風の吹く時間は英国やデンマークの半分程度だ。

 ●カギはやはり原発の活用
 経団連の中西宏明会長も、日本商工会議所の三村昭夫会頭も、安全性が確認された原発の着実な再稼働や新設・増設を政治家の強いリーダーシップで実現しなければならないと主張している。国基研も4月12日、「脱炭素の答えは原発活用だ」と題する政策提言を発表した。
 現在、1kWh(キロワット時)当たりのCO2排出量が低い国のランキングで上位を占めるのは、ノルウェー、スウェーデン、スイス、フランスなど、水力発電と原発を主要な電力源とする国々だ。日本では、原子力規制委員会が審査中の全ての原発を再稼働することでCO2を20%削減できる。さらに、将来的に電力需要の少なくとも35%を原発が担うとして、それに必要な原発24基の新増設や新型炉へのリプレースに推定34兆円かかるが、再エネへの投資に比べて費用対効果ははるかに大きい。(了)