4月12日付で国基研政策提言「脱炭素の答えは原発活用だ」を発表し、①24基の原発の新増設②日本の進んだ火力発電技術の輸出により二酸化炭素(CO2)排出削減に貢献すること―を提案したが、どちらも実現のめどが立たない。その結果、日本を代表する重電メーカーの発電プラント製造能力は存亡の危機に直面している。
● 原発も火力発電も頓挫
梶山弘志経済産業相は4月6日、「原発の新増設、リプレース(建て替え)は想定していない」と明言した。2011年の福島第一原発事故まで、我が国の3大重電メーカー(日立製作所、東芝、三菱重工)は、それぞれ世界の原発建設3大グループを率いていた。事故後の10年間、原発の輸出は全て頓挫し、国内でも新設が無く、使われなかった原発の圧力容器、蒸気発生器などの重要機器の製造設備の廃棄が始まった。技能オリンピックの金メダリストたちの熟練技能者は、配置転換や他社への出向となった。関連のポンプやバルブ、制御装置などのメーカーにも撤退や廃業が広がっている。人材育成や技術継承は困難になった。梶山氏の発言がそれに追い打ちをかけた。
一方、菅義偉首相は4月22~23日の米国主導の気候変動サミットで、2030年の温室効果ガス排出量を2013年度比で46%削減する目標を表明した。これにより、火力発電の新規の建設が無くなる。現在の液化天然ガスの火力発電は、ガスタービンと蒸気タービンで発電する複合サイクル発電(GTCC)だ。熱効率(車の燃費に相当する)が62%と高いので、少ない燃料でたくさん電気が得られる。同様に石炭もガス化して複合サイクル発電所にすることで燃費が向上するので、その分CO2の排出が減る。これを石炭ガス化発電(IGCC)と呼び、輸出すれば世界の石炭火力のCO2削減に大きく寄与するはずだった。国が長期間をかけて開発した世界初のIGCC技術も、国際協力銀行が融資しないことが決定し、設備の輸出がほぼ不可能となった。
●匠の技を失ってはならない
蒸気タービンは、原発にも火力発電所にも使われる。蒸気タービンの回転軸は直径2~4メートルで、寸法の加工誤差の許容値は0.05ミリだ。長さは6~10メートル、重量は最大150トンあり、この巨大な鋼鉄の回転体に数千本のタービン翼を取り付けて1分間に3600回転する。戦艦の主砲技術から始まった巨大な匠の技の集大成である。この製造設備も発電所の新増設や輸出がなければ廃れてしまう。一度失った技術を取り戻すのは困難だ。
高度成長時代を支えた原子力と火力の発電プラント製造設備が廃棄されると、温室効果ガス排出実質ゼロを目指す2050年までに必要となる原発の新増設やリプレースは、中国や韓国からの輸入に頼らなければならなくなる。一方、中国の石炭火力発電の世界シェアは2020年に53%へ拡大し、複合サイクルではない安価な石炭火力設備が世界中に輸出されている。実利を冷徹に追求する中国に対し、マスコミ受けを狙うような日本の閣僚の発言で国の基幹産業の盛衰が決まる。これで良いのか。(了)