公益財団法人 国家基本問題研究所
https://jinf.jp/

今週の直言

有元隆志

【第821回】アフガン「敗北」を日本自立の契機に

有元隆志 / 2021.08.23 (月)


産経新聞月刊正論発行人 有元隆志

 

 イスラム原理主義勢力タリバンがアフガニスタンで20年ぶりに実権を掌握した。米国に歩調を合わせて、これまで総額約7000億円をつぎ込み、アフガニスタンの「自立」を支援してきた日本にとっても、今回の事態は「敗北」と言ってもいい。
 筆者は2001年9月11日、米ニューヨークのダウンタウンに住んでいた。世界貿易センタービルに2機目の飛行機が突入し、それからしばらくしてツインタワーが轟音を立てて崩壊する様子を間近で目撃した。今でもあの光景は目に焼き付いている。事件で犠牲になった約3000人には日本人24人も含まれている。日頃は共和党を辛辣に批判するニューヨーカーも、この時は共和党のブッシュ大統領によるアフガニスタン攻撃を熱烈に支持した。

 ●根付かなかった民主主義
 あれから20年間、米国は日本や欧州諸国などと共に、アフガニスタンの民主化を進めることで、同国が「テロの温床」とならないよう努めてきた。日本は2002年と2012年、アフガン支援国会合を東京で主催した。2012年の時は「アフガニスタンを見捨てない」をテーマに、2015年から2024年までを「変革の10年」と位置付け、アフガニスタンの自立に向けた開発面での努力を支えていくことを確認する「東京宣言」を発表した。
 ここでは代表制民主主義と公平な選挙、法の支配及び人権、ガバナンスなど5分野で目標と指標を設定した。しかし、アフガン国内の汚職、暴力によってこうした目標が実現することはなく、駆逐したはずのタリバンが戻ってきた。
 日本政府は米国以外からの情報で、タリバンの進撃は予想以上に速く、カブールの「無血入城」もあり得ると分析していた。8月上旬の米国との高官協議ではアフガン情勢を提起したが、米側の反応は鈍かったそうだ。
 米国務省内に危機感はあったというが、その認識がバイデン大統領に伝わらなかったか、伝わっても無視されたのか、いずれにせよホワイトハウスが情勢を深刻に見ていなかったことは間違いないようだ。

 ●「引き気味」の米国
 批判にさらされているバイデン大統領も明言しているように、アフガニスタンと日本を同列視すべきではない。在日米軍が直ちに撤退するような事態にはならないだろう。ただ、米国が全体的に国際問題への関与から手を引き気味であるという事実を認識する必要がある。
 米国内ではアフガニスタン統治の際に、終戦直後に日本を統治した連合国軍総司令部(GHQ)との比較が話題になった。確かに日本では統治は成功したといえるかもしれないが、いまの日本は軍事的に「自立」したとは到底言えない。いつの間にか「矛」の役割は米軍に依存することになった。侵略戦争を行わないのはいいとしても、「専守防衛」では国を守れない。
 尖閣諸島(沖縄県石垣市)や朝鮮半島情勢が緊迫化し紛争に発展した場合、仮に米国からの支援がなくても日本が独力で守り抜けるようにしなければならない。そのためにも、敵基地攻撃能力を保持できるようにし、中距離弾道ミサイルを保有することは急務である。(了)