公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

奈良林直

【第822回】アフガンの鉱物資源を狙う中国

奈良林直 / 2021.08.23 (月)


国基研理事・東京工業大学特任教授 奈良林直

 

 アフガニスタンの地下には、膨大な量の鉱物資源が眠っている。バイデン米政権がアフガニスタンから米軍の拙速な撤退を行い、タリバンの実権掌握を許したことで、この鉱物資源が中国の手に転がり込む恐れが出てきた。

 ●レアアースも確認
 アフガニスタンの鉱物資源の調査は、米地質調査所(USGS)のジャック・メドリン氏のチームによって2011年に実施された。ソ連占領期の資料や、地下10キロまでの岩盤の3次元情報を得ることができる特殊航空機、さらには資源探査衛星を用いた調査で有望とされた地点にヘリコプターで降下。1か所1時間以内、反政府武装勢力が来襲する前に退避することを繰り返した。その結果、世界有数の埋蔵量を誇る金、銅、鉄、リチウム、ウランなどの鉱床が7か所で確認された。南部のタリバン支配地の埋蔵量は「ゴールドラッシュが起きるほどの量だ」とメドリン氏が語っている。
 USGSの調査では、ハイテク産業や再生エネルギー製品に必須のレアアース(希土類)であるルビジウムなどの大きな鉱床も発見された。南部ヘルマンド州のレアアース推定資源量は少なくとも100万トンと発表された。時間をかけて調べれば、鉱床は軽く2~3倍に増えると予想される。電気自動車や再エネ利用の発電・蓄電・送電に今後爆発的に需要が伸びるリチウムや銅の鉱物資源、そして強力なモーターや発電機に用いられる永久磁石に必要なルビジウムなどレアアースの価値は、1兆ドルを超えると見込まれる。
 中国はタリバンによる首都カブール制圧前から、タリバンとの関係構築を試みてきた。アフガニスタンが政治的に安定すれば、中国は広域経済圏構想「一帯一路」の下で、アフガニスタンの鉱物資源開発に乗り出し、これら資源を手に入れることを視野に入れているのではないか。中国のタリバン支援の絶対条件は、タリバンが中国西部の新疆ウイグル地区の分離独立を目指す少数民族ウイグル人の過激派と手を切ることである。タリバンがウイグル人過激派を支援しない約束を実行し、中国・タリバン関係が軌道に乗れば、中国としては、重要鉱物資源の入手とウイグル人の封じ込めという一石二鳥を狙える。

 ●「一帯一路」を推進するはめに
 新疆ウイグル自治区のカシュガルからパキスタン南西部のグワダル港までを結ぶ「中国・パキスタン経済回廊」の建設は一帯一路の一大プロジェクトだ。アフガニスタンの安定は、パキスタンや中央アジアの一帯一路プロジェクトをイスラム過激派の攻撃から守り、一帯一路を推進することにもつながる。中国の深謀遠慮はバイデン政権より上だ。
 バイデン政権はアフガニスタンからの撤退を正当化する理由として、戦略的に重要な中国との抗争に米軍の資源を集中できると説明してきた。拙速な米軍撤退が逆に中国を利する結果を招くとすれば、これ以上の皮肉はない。(了)