公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

有元隆志

【第823回】自民総裁候補は「国家観」を語れ

有元隆志 / 2021.08.30 (月)


産経新聞月刊正論発行人 有元隆志

 

 9月17日告示、29日投開票の日程が決まった自民党総裁選で、候補者たちに問いたいことがある。それは日本を取り巻く現状をどのように分析し、日本をいかなる方向に導いていこうとしているのかということだ。
 野党第一党の立憲民主党は日本を壊滅の危機に陥れた旧民主党政権の残党が中心メンバーであり、政権担当能力はない。次期自民党総裁には日本の首相として舵取りが託される。
 候補者たちは果たして今の日本が危急存亡の時にあるということをどこまで深刻に受け止めているかをただしたい。

 ●問われる中国への姿勢
 専制国家・中国は民主主義諸国と全く異なる価値観を掲げ、世界の覇権を目指した動きを強めている。尖閣諸島は日本固有の領土であるにもかかわらず、連日のように中国公船が周辺海域に侵入し、日本は実効支配を失う寸前となっている。アフガニスタンはイスラム原理主義勢力タリバンの復権で再びテロの温床となりかねない。ロシア首相は7月に日本の北方領土にわが物顔で上陸した。
 菅義偉首相は4月の日米首脳会談で、「台湾海峡の平和と安定の重要性」を明記した共同声明を発出し、日本が「自らの防衛力を強化すると決意した」と同声明に書き込んだ。ついに日本が「ルビコン川を渡った」と、私たちはその決断を高く評価した。ところが、帰国後の菅首相を見ると、本人には「渡った」との自覚がないのではないかと疑ってしまう。
 中国当局による新疆ウイグル自治区などでの深刻な人権弾圧に対する国会の対中非難決議採択は見送られた。防衛力強化に向け菅首相がイニシアチブを発揮した形跡も今のところない。各候補は中国にどう対峙していくかの立場を明確にすべきだ。
 国内では、今年に入って何度も緊急事態宣言や宣言に準じる「蔓延まんえん防止等重点措置」が発せられ、経済活動が著しく制限されている。感染拡大を阻止し、医療態勢の崩壊を防ぐのは当然としても、ワクチン接種が進んだ後の新型コロナウイルスとの「共生社会」をどのように描いているのか。菅首相は「脱炭素」の号令ばかりで、小泉進次郎環境相が言及するように太陽光発電の設置義務化を実施すれば日本経済は弱体化する。
 このような状況に直面しても、我々は戦後70年以上続いた「平時」の感覚から抜け出せないでいる。ただ、今は危機であると同時に、日本を変革する絶好の機会でもある。この好機を捉えずに日本の再生はない。

 ●憲法改正の道筋示せ
 以上を踏まえ、各候補には個別のテーマとして、①憲法改正の実現②拉致事件の解決③安定的な皇統の継承、特に旧宮家男系男子の皇籍復帰④防衛力の強化、特に大幅な防衛費増と共に、敵基地攻撃能力の保持⑤製造業強化などによる日本経済の再生⑥原発の長期運転、新増設などエネルギーの安定供給⑦日本学術会議の廃止⑧慰安婦問題など歴史認識―に関してどのように取り組むかの見解を聞きたい。
 国家は強くなければならない。強くするための処方箋を提示する候補を支持したい。(了)