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太田文雄

【第829回】二つのアレルギーで原潜協力から疎外された日本

太田文雄 / 2021.09.21 (火)


国基研評議員兼企画委員 太田文雄

 

 米国、英国、オーストラリアは15日、米英両国が豪州の原子力潜水艦建造に技術協力することを柱とする安全保障の新たな枠組みを創設したと発表した。3国の国名をつなげてAUKUS(オーカス)と名付けられたこの枠組みに日本が入れないのは、原潜を建造する意志が日本にないからである。
 同日、韓国は潜水艦から弾道ミサイルの発射実験に成功した。日本には潜水艦から弾道ミサイルを発射するという発想もない。日本周辺では北朝鮮、中国、ロシアはもとより韓国、台湾ですら射程1000キロ以上のミサイルを保有し始めており、保有していないのは日本だけになった。
 これらは日本人の原子力と軍事力に対するアレルギーに起因しており、人口や国内総生産(GDP)で劣る豪州や韓国の後塵を拝することになった。

 ●原子力に拒絶反応
 昭和47(1972)年、日本の原子力船「むつ」の試験航海中に微弱な放射能漏れがあったことがメディアに大きく報じられたため、舶用原子炉は葬られることになった。この原子力アレルギーによって、潜水艦を含む軍艦向けの原子力エンジンも開発の道が閉ざされてしまった。
 AUKUSの原型は、米英豪にカナダ、ニュージーランドを加えた5カ国の機密情報共有の枠組み「ファイブ・アイズ」である。この枠組みは今も存在するが、1985年にニュージーランドが米国の核搭載艦の入港を拒否したことから、米英豪加の4カ国の枠組みの重要性が増した。筆者が在米日本大使館の防衛駐在官時代、米国防総省では4カ国の国名をつなげた「AUSCANUKUS Only」の文書があり、我々日本人は見せてもらえなかった。
 今回、原潜の建造・保有の枠組みとして米英豪のAUKUSが生まれたが、カナダもキングストンの統合士官学校には、日本の防衛大学校にはない原子力発電の実物教材がある。

 ●軍事力を忌避する保護国根性
 一方、11日と12日に北朝鮮は巡航ミサイルを発射し、1500キロ飛行したと報じられた。多くのメディアは、これを非核と決めつけているが、写真を見る限り米国のトマホークに類似している。トマホークは核弾頭搭載の種類もあることから、いずれは北朝鮮の巡航ミサイルも核弾頭を搭載することになるであろう。
 これまで北朝鮮は車載の弾道ミサイル発射装置を有していたが、重量があり通常の道路や橋梁を走行するのには限りがあることから、行動範囲は狭かった。しかし、15日の弾頭ミサイル実験に使われた鉄道搭載発射装置であれば相当な移動範囲が見込まれ、しかも今回のように大気圏内で変則軌道を描けば、現在日本が保有する弾道ミサイル迎撃システムでは対処が難しい。
 にもかかわらず17日に行われた自民党総裁選の討論会で、野田聖子候補はいまだに「非戦」を口にし、河野太郎候補はミサイル発射源攻撃を「時代遅れ」とし「日米同盟で抑止力を」と述べている。要するに米国頼みの保護国根性だ。(了)