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有元隆志

【第830回】自民に改めて問う―「河野首相」でいいのか

有元隆志 / 2021.09.21 (火)


産経新聞月刊正論発行人 有元隆志

 

 自民党総裁選(29日投開票)は河野太郎氏の優勢が伝えられている。だが、17日の告示日からの記者会見、討論会を聞いていると、河野氏は日本を率いる指導者としての準備が出来ていると思えない。自民党に改めて問いたい。「河野太郎首相」でいいのか。

 ●危うい防衛・エネルギー政策
 国家基本問題研究所は、総裁候補4人に「国を守る覚悟を示せ」と迫る意見広告を全国紙3紙に出した。この中で「敵基地攻撃能力を抑止力として保持するか」との問いかけを行った。
 河野氏は弾道ミサイルを相手国領域内で阻止する敵基地攻撃能力について「昭和の時代の概念だ」と述べ、時代遅れとの認識を示した。対照的に、高市早苗氏は敵基地を迅速に無力化する能力の構築を主張する。岸田文雄氏も敵基地攻撃能力を「有力な選択肢」と捉えている。北朝鮮が列車から弾道ミサイルを発射した直後だけに、ミサイル防衛は喫緊の課題だ。
 抑止力があって初めて外交力も生まれる。にもかかわらず河野氏は、敵基地攻撃能力よりも「議論すべきなのは日米同盟でいかに抑止力を高めていくかだ」と語るだけで、どのように抑止力を高めていくか具体的に説明しない。
 エネルギー政策に関しても、河野氏は「再生可能エネルギー100%で国のエネルギーを回すことだって絵空事ではない」と述べ、再エネを最優先する考えを示した。ただ、経済産業省の試算によると、再エネで発電した電気を大手電力会社が固定価格で買い取る制度(FIT)による国民負担は2030年度に最大4.9兆円に達する。民主党政権の菅直人元首相が再エネの促進を図って以降、一般家庭の電気代は年間1万3000円上がったという現実も忘れてはいけない。
 意見広告では、「使用済み核燃料再処理をやめると使用済み燃料の行き場が無くなる。目先を変えた原発廃止論ではないのか」との問題提起もした。核燃料サイクルの見直しを唱える河野氏は、再処理工場のある青森県との協議について「国がやらなければいけない」と述べただけだった。河野氏は省エネを推進し、再エネの割合を伸ばし、足らざる部分を原発再稼働で補うと主張するが、これでは電力の安定供給が危うくなる。
 年金改革でも、河野氏は消費税を基礎年金の財源に充てて、最低限の年金額を保障する「最低保障年金」構想を打ち出した。年金制度を維持するためというのがその理由だが、消費税率をどれほど上げることになるか財源を示すことはなかった。

 ●次代に「負の遺産」を残すな
 河野氏は再エネなどの耳障りのいい話を並べるが、その裏で何を語っていないのか、政策を見極めないといけない。河野氏が打ち出す「温もりのある社会」「共感される政治」は、「きずなの社会」「人間を大事にする政治」を訴えた民主党を連想させる。民主党政権が日本を危機に陥れたことを忘れてはなるまい。
 自民党若手議員が党改革を唱えるのは自由だが、最も重要なのは政策である。私たちは政策をよく見極めて判断しなければ、子や孫の世代に大きな「負の遺産」を残すことになる。(了)