中国の環太平洋経済連携協定(TPP)への加盟申請を受けて、台湾も加盟を申請した。前稿(第831回)で「台湾も早期に加盟申請すべきだろう」と指摘したが、台湾の動きは予想以上に早かった。昨年署名された「地域的な包括的経済連携協定」(RCEP)への参加は中国によって阻まれ、このままではアジアの経済圏で孤立しかねないとの危機感があった。
台湾が素早く対応できたのは、すでに申請の準備をしていたからだ。加盟を早くから希望していた台湾は今年の議長国である日本の支援に期待を寄せていた。これに対して日本は中国を刺激することを懸念し、台湾は加盟申請を懐に忍ばせながら、加盟各国と非公式の協議を水面下で続けていたのだ。
しかし中国が加盟申請してしまって状況は一変した。台湾は中国と「同時期の申請」と扱われるよう即座に動いた。茂木敏光外相がこれに「歓迎」と応じたのはそうした背景があった。客観的に見ても、参加資格を満たすレベルは中国と雲泥の差があり、歓迎するのは当然だ。
中国は猛反発し、日本の対応にも抗議した。中国は加盟各国に台湾の加盟を認めないよう激しく圧力をかけてくるだろう。
●交渉開始前が勝負時
問題はこれからの対処だ。早速、懸念すべき意見が聞こえてくる。「中国の加盟申請を門前払いせず、加盟交渉ぐらいはすべきだ」というのは一見もっともらしいが、交渉のプロセスを踏まえない意見で、中国の思うつぼである。
加盟プロセスには2段階ある。第1段階は加盟交渉を開始するかどうかの決定、第2段階は加盟を承認する決定だ。多くの人はこれを区別しないで論じている。焦点は第1段階の入り口だ。前稿で指摘したように、中国は加盟交渉に入りさえすれば、中国市場を餌に加盟各国に例外扱いの「抜け道」を認めさせて各個撃破できると踏んでいる。その結果、TPPのルールは骨抜きにされかねない。
そこで、加盟交渉に入る前にいかに中国にルール順守をコミットさせるかが重要になってくる。6月に英国の加盟交渉の開始を決定した際も、「TPPのすべての既存ルールに従うための手段を示さなければならない」とされている。今回、台湾も「すべてのルールを受け入れる用意がある」と早速表明した。
中国も同様のコミットをしない限り加盟交渉に入らず、加盟申請を「要観察」扱いにすべきだろう。これは門前払いとは違う。最近の習近平政権が経済の統制を強めて国有企業もてこ入れするなど改革に逆行していることから、「要観察」扱いにする正当性もある。
●同時加盟案は危険
また、中国と台湾の同時加盟案をささやく人もいる。これもルール順守を無視した、単なる中台政治バランス論で危険だ。中国を入れると将来の米国復帰の芽を摘むだけでなく、中国のために加盟のハードルを下げることにつながる。これは日本の戦略目標を見失うものだ。こうした安易な考えに惑わされず、腰をふらつかせずに対応できるか、新政権は発足早々に真価が問われる。(了)