公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

太田文雄

【第842回】極超音速兵器にどう備えるか

太田文雄 / 2021.10.25 (月)


国基研評議員兼企画委員 太田文雄

 

 北朝鮮は19日、大気圏内で変則軌道を描く弾道ミサイルを潜水艦から試験発射した。先月28日には極超音速兵器(Hypersonic Glide Vehicle=HGV)とみられる火星8型ミサイルを陸上から発射している。
 変則飛行が特性のHGVは、弾道ミサイル防衛網を突破できるいわゆるゲームチェンジャーとして、ロシアが1990年代後半から開発に着手し、これまで陸上からのみならず水上艦や潜水艦からの発射に成功している。また英紙フィナンシャル・タイムズによると、中国は8月に核弾頭を搭載できるHGVを地球周回軌道から試験発射した。やや遅れ気味の米国は、20日に陸海軍がHGVの実験に成功した。こうしたHGV開発に日本はどう対応しようとしているのか。

 ●衛星コンステレーションの研究進む
 現在、日本が保有している弾道ミサイル防衛システムは、大気圏外で迎撃するイージス・システムと落下直前に迎撃するPAC3から構成されている。北朝鮮が先月発射した火星8型や19日に発射した潜水艦発射ミサイルは大気圏内を飛行するため、イージスでは迎撃できない。また、変則軌道で飛行するので、PAC3による迎撃も困難である。
 現在、防衛省では、HGVを宇宙から多数の衛星で探知・追尾する「衛星コンステレーション」、長時間の警戒監視が可能な滞空型無人機、弾丸を高初速で連続発射できるレールガン、HGV用シーカー(探知・追尾装置)の研究予算を来年度の防衛予算に計上している。
 こうした研究がいつ実用化できるかは不明であるが、少なくともそれまではミサイル発射源を攻撃する能力が必要となる。なおHGVや大気圏を変則飛行するミサイルが出現したら、これまでのイージス・システムは予算の無駄遣いとなるのか、と言えばそんなことはない。北朝鮮をはじめとして多くの国の弾道ミサイルの大半はイージス・システムで対応できるのである。

 ●ミサイル潜水艦には攻撃型潜水艦で対処
 しからば19日に北朝鮮が行ったような潜水艦からの弾道ミサイル発射にはどう対処すべきか。潜水艦は大別して、弾道ミサイルを発射する潜水艦と、敵の潜水艦や水上艦を攻撃する潜水艦がある。今回、北朝鮮が弾道ミサイル発射に利用したと報じられている「8.24英雄艦」は、旧ソ連が第2次世界大戦中に開発した古い潜水艦で、ノイズレベルは極めて高い。こうした潜水艦が外洋に出れば、日本の潜水艦の探知するところとなり、水面近くに浮上してミサイルを発射しようとする直前に攻撃することができる。
 米海軍はグアム島に攻撃型原子力潜水艦を配備し、南シナ海から米本土を狙う中国の弾道ミサイル原潜を攻撃する構えを見せているが、北朝鮮の旧式潜水艦に対しては、日本に任せたいのが本音であろう。(了)