林芳正外相は就任時に辞任した日中友好議員連盟会長の意識が抜けないのか。中国の王毅外相から訪中招請を受けたことを自ら明かした。来年2月の北京冬季五輪開会式出席に対する外交的ボイコットが、国際社会で焦点となっている最中にもかかわらずだ。
11月18日の外相電話会談後には日中双方とも発表しなかったが、林氏は21日のフジテレビ番組で「中国側から訪問のインビテーション(招待)があった」と語った。「具体的な調整が始まったわけではない」と付け加えたものの、同日のBS朝日番組では「招請を受けたので調整はしていこうということになっている」と述べ、対面による外相会談に前向きな姿勢を示した。
●日中経済交流に前のめり
問題はこれだけでない。両外相は「明年の日中国交正常化50周年を契機に経済・国民交流を後押しする」ことでも一致した。外交筋によると、林氏は日本の経済界と中国の李克強首相とのオンライン会談も提案したという。日中経済協会など財界代表は毎年訪中団を結成し、李首相とも面会してきた。中国・武漢発の新型コロナウイルスが世界にまん延してからは中断しているが、早期に日中の交流を再開したいとの前のめり姿勢が見て取れる。
日中経済協会や日中友好議員連盟は中国当局が〝公認〟する「友好7団体」である。林氏は2018年5月の訪中で、習近平国家主席に近い栗戦書全国人民代表大会(全人代)常務委員長と会談した。中国側は巨大経済圏構想「一帯一路」への積極的な支持があったとアピールした。
林氏は今年1月にも他の友好団体の代表と孔鉉佑駐日大使とのビデオ対話に参加し、新年のあいさつを交わした。在日中国大使館のホームページは友好団体代表が「コロナと闘い、世界に先駆けて経済のプラス成長を実現した中国の成果を積極的に評価し、東京五輪と北京冬季五輪を契機に(中略)交流と協力を強化し、両国の世論基盤を改善」したいと表明したと紹介した。
●「媚中派」の轍を踏むな
林氏は「親中派」や「媚中派」と呼ばれることを嫌い「知中派」を自認する。そうであるならば、尖閣諸島周辺海域での中国公船の挑発行為や人権問題に対する日本側の深刻な懸念をどこまで伝えてきたのか。
2008年、中国の人権問題に対する懸念があったものの、当時の福田康夫首相は夏の北京五輪開会式に出席した。前年9月の自民党総裁選出馬の時の記者会見で福田氏は「お友達の嫌がることをあなたはしますか。しないでしょう。国と国の関係も同じ。相手の嫌がることをあえてする必要はない」と言い放った。とても国の最高指揮官になろうとする人物が発する言葉ではないが、外相は「お友達外交」を推進する立場ではない。林氏には「媚中派」の福田元首相の轍を踏まないようにしてほしい。(了)