岸田文雄首相は中国が軍事的圧力を強める台湾の有事に備えるため、敵基地攻撃能力の保有を含めた日本の軍事力強化に邁進すべきだ。21日の日米オンライン首脳会談で、岸田首相は年内に策定する国家安全保障戦略などにおいて、敵基地攻撃能力の保有も含めあらゆる選択肢を排除せずに検討する方針を伝え、バイデン米大統領も「歓迎した」という。
●対処力強化で日米が一致
首脳会談後、岸田首相は記者団に対し、バイデン大統領との約80分の会談で中国についてかなりの時間をかけて議論したことを明かした。しかし、台湾情勢に関しては「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調し、両岸関係の平和的解決を促すとのやり取りはあったが、これ以上詳細(を明らかにすること)は控える」と述べるにとどまった。
日本政府高官は「我々がやることは日本版の韜光養晦だ」と語る。韜光養晦とはかつて中国の最高実力者、鄧小平が唱えた「能力を隠して内に力を蓄える」という中国の外交・安保方針だ。同高官は「低姿勢に見えるかもしれないが、力を蓄えることに力点がある」と説明する。そのことは1月7日の日米外務防衛閣僚会合(2プラス2)後の共同発表に出ているという。
日米間の事前の協議では、2プラス2の共同発表で台湾に関してより踏み込んだ内容にすべきだとの意見もあったが、「中国の反発が予想される台湾をめぐる表現にこだわるよりも、対処力強化を重視すべきだ」との認識で一致したという。台湾については「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調した」と、昨年4月の日米首脳会談後の共同声明と同じ表現となったものの、「地域における安定を損なう行動を抑止し、必要であれば対処するために協力することを決意した」と明記した。
日本政府当局者は「『抑止(deter)』だけでなく『対処(response)』が含まれていることに意味がある」と語る。日米首脳会談の共同声明では「地域の平和及び安定を維持するための抑止の重要性も認識する」に止まっていた。2プラス2の共同発表ではさらに「対処」の内容に関し「同盟の役割・任務・能力の進化及び緊急事態に関する共同計画作業についての確固たる進展を歓迎した」と記した。「緊急事態に関する共同計画」が台湾有事を念頭に置いたのは明白であろう。それだけ台湾有事に備えた日米の協力が深まっているのだ。
●必要なのはやり抜く力
昨年の共同声明で首脳会談の文書としては52年ぶりに台湾に言及して以降、日本は台湾有事で後戻りできない「ルビコン川」を渡った。今月の2プラス2と首脳会談では、より方向性が明確になった。岸田首相に求められるのは「聞く力」ではない。防衛費の大幅な増額、敵基地攻撃能力の保有などを迅速にやり抜く力である。(了)