日本経済の停滞が言われて久しい。今後の経済見通しでも、日本は先進国の中でも依然低迷している。政府も危機感を持ち、成長戦略は常に政権の重要政策となって、政府における会議や計画は枚挙にいとまがない。未来投資会議、成長戦略会議、成長戦略実行計画、グリーン成長戦略などなど。しかし、単なる看板の付け替え、お化粧直しの感も否めない。
経済成長しないのは、もちろん日本の生産性が米国の65%と低いからだ。ならば、なぜ生産性が低いのか。日本企業については、欧米企業に比べて利益率が低く、設備投資や研究開発などのリスクテイクが下回るなど、経営の質に厳しい指摘が行われている。それも重要なのだが、同時に企業を取り巻く経営環境の厳しさにも目を向ける必要がある。
●企業の投資を制約
政府がデジタル、脱炭素、経済安全保障など今後の中長期の成長分野を指し示し、誘導していくための支援策を講じることは不可欠だ。問題はそれに呼応して主役であるべき企業の投資行動が変化していくかだ。企業が投資しなければ、いくら素晴らしい成長戦略を作っても「絵に描いた餅」になる。
例えば、成長戦略としても位置付けられている経済安全保障がそうだ。半導体などの戦略物資の供給網の強靭化が経済安保の柱の一つだ。国が重要物資を指定して、企業の国内生産基盤への投資を財政支援する。これは先端半導体について今年度補正予算の6000億円で設備投資を支援する仕組みをモデルとする。
そうした供給網を強靭化する主役は生産基盤に投資をする企業だ。そして企業が投資判断する際に重要なのは、初期コストだけでなく、オペレーションコストだ。いくら設備投資の補助金を用意されても、オペレーションコストが高くて収益を期待できなければ企業は投資をしない。
そして、その大きなネックになっているのが電力コストの高さだ。産業用電力は中国、韓国の約1.8倍、米国の2.4倍と極めて高く、半導体産業や医薬品の原材料生産などの競争力維持は困難だ。ドイツは脱原発政策の結果、電力料金が高騰し、国際競争力を維持するために産業用電力について大幅に財政支援をして企業の負担を軽減している。日本も少なくとも経済安保上不可欠な物資の生産基盤については設備投資の支援のみならず、電力コストの軽減策を講じなければ、企業の投資は困難だろう。
●脱原発の限界
しかし、根本的にはエネルギー政策においてエネルギーコストの問題を深刻にとらえるべきだ。脱原発でのエネルギー供給では、成長戦略も経済安保政策も机上の空論になってしまう。原発の再稼働のみならず、新増設の問題も避けて通れないだろう。(了)