中国の新彊ウイグル、チベット、南モンゴルや香港での人権問題に関する決議が1日、衆院本会議で採択された。国会はこの決議採択で終わることなく、日本在住のウイグル人らから被害の実態を聴取し、人権報告書として公表すべきだ。
もともとこの決議は中国による人権弾圧への非難と、被害者救済の法整備へ向けた衆院としての決意を表明するはずだった。ところが、肝心の「中国」の国名が入っていないだけでなく、与党内の調整で「非難」「人権侵害」という表現も削除され、骨抜きの内容になった。これで国際社会に向けて顔向けできるだろうか。国会議員には猛省を促したい。
●在日ウイグル人の話を聞け
日本在住のウイグル人らから直接話を聞けば、いかに決議の内容が不十分であるか、国会議員も分かるであろう。ウイグル人らはこれだけSNS(インターネット交流サイト)が発達した時代にあっても、故郷の家族と連絡を取れない。家族や親族がどのような理由か分からないまま収容所、刑務所に入れられている。あるいは連絡が取れたとしても、公安当局の管理下に置かれており、日本の情報を提供するよう求められるケースもある。ウイグル人の中には日本に帰化した人も少なくない。中国の人権弾圧は決して他人事ではないのである。
この決議採択をめぐってもそうだったが、政府・与党内からは中国の人権問題を取り上げようとすると、決まって「中国が反発して、国際社会で慰安婦問題などを提起してくるかもしれない」という慎重論が出てくる。中国の裁判所が慰安婦や戦時労働者をめぐる訴訟を積極的に受理し、日本企業に賠償を命じる判決が相次ぐのではないかというのである。
似たようなことは「佐渡島の金山」(新潟県)を国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界文化遺産として推薦する問題でも起きた。この場合は韓国が反発しているが、時に中国と韓国は連携して日本に対して歴史戦を挑んでくる。人権問題や歴史認識論争から逃げてはいけない。正面から反論し、国際社会に真実を伝える努力をするしかないのである。
●人権関与は国際公約
岸田文雄首相はバイデン米大統領との1月21日のテレビ会談で、香港や新疆ウイグル自治区での人権状況について「深刻な懸念を共有」した。これに先立って行われた同月7日の外務・防衛担当閣僚による日米安全保障協議委員会(2+2)の共同発表でも、「自由、民主主義、人権、法の支配、国際法、多国間主義及び自由で公正な経済秩序の尊重へのコミットメントを共有する全ての主体と協力することにコミットした」と明記した。首脳間で約束した以上、我が国は米国と連携して中国の人権問題などに取り組む責務がある。(了)