主体性を持って国防力の強化を図る―。主権国であるならば当然のことを、戦後の日本は長らく怠ってきた。「自国の防衛に努力しない国のために一緒に戦う国はない」と明言したのは安倍晋三元首相である。当然の主張である。日米同盟は大事だが、それに安住すべきでない。
安倍氏は産経新聞のインタビュー(3月26日付)で、「自民党は(昨年秋の)衆院選の公約で防衛費について『国内総生産(GDP)比2%以上も念頭』と明記しましたが、当然でしょう。自国の防衛に努力しない国のために一緒に戦う国はありません」と語った。ロシアによるウクライナ侵略を見ても、ウクライナ国民が武器を取って戦っているから、各国も武器供与などを行うのである。国民があっさりと降伏してしまえば、誰も支援してくれない。
●「GDP2%」に言及しない首相
岸田文雄首相も13日の自民党大会で、「ロシアの暴挙を我が事として捉え、第一に我が国自身の防衛体制を見直し、強化する」と強調した。
だが、首相は安倍氏のようにGDP比2%には言及しなかった。ドイツのショルツ首相がロシアのウクライナ侵略を受けて、国防費をGDP比2%超に即、引き上げると宣言したのとは対照的である。具体的な数字に言及すると野党などからの批判を浴び、7月の参院選に影響するとでも思っているのだろうか。
国の外交・防衛政策の基本方針を示す新たな国家安全保障戦略などの見直しも年末の予定である。岸田首相は国防力強化について夏までに「青写真」を示し、むしろ参院選でそれを訴えて戦うべきではないか。
それほど我が国を取り巻く状況は切迫している。ロシアは経済制裁に踏み切った日本を牽制するかのように、日本固有の領土である北方領土などで軍事演習を実施した。北朝鮮は今年に入って相次いで弾道ミサイルを発射した。日本海はあたかも北朝鮮の「実験場」と化している。東シナ海では中国公船による尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺への領海侵犯が日常化している。
最近の日米首脳会談では、米側が日米安全保障条約第5条の共同防衛条項の尖閣諸島への適用に言及することが多くなっている。そこまで事態が緊迫しており、中国に対抗するために米国を取り込むことは意味があるが、5条への言及で満足していてはいけない。
●戦後の眠りから目覚めよ
安倍氏が言うように、日本自身が国の防衛のために全力を尽くさない限り、米軍は助けに来ないだろう。岸田首相は党大会での挨拶で「我が国には日米同盟という世界屈指の同盟関係がある」と胸を張ったが、その大前提が日本の国防努力であることを忘れてはならない。
長らく泰平の眠りに就いていた江戸時代の日本国民の目を覚ましたのは、1853年の米ペリー艦隊の横須賀・浦賀沖への来航であった。日本国民は今、再び目を覚ます時である。(了)
第102回 本日の企画委員会
米国から一時帰国の吉田正紀元海将と意見交換。わが国はウクライナ問題から何を学ぶべきかを議論。自国を守る強い意思は絶対です。詳しい議論は各専門家が解説します。