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西岡力

【第916回】再論・北朝鮮の核恫喝にどう立ち向かうのか

西岡力 / 2022.05.09 (月)


国基研企画委員兼研究員・麗澤大学客員教授 西岡力

 

 私は4月4日付本欄で、北朝鮮の実質的ナンバー2である金与正朝鮮労働党副部長らが非核保有国の韓国に核恫喝を加えたことについて、同じ非核保有国であるわが国にとっても見逃せない危機であり、核拡散防止条約からの脱退を検討すべきだと書いた。
 残念ながら私の問題提起はほとんど波紋を呼ばなかった。恫喝した人物が北朝鮮の最高指導者ではなかったことと、脅された相手である韓国の文在寅政権がほとんど反発しなかったことなどが理由かもしれない。

 ●金総書記が先制使用の脅し
 それに味を占めたのか、今度は北朝鮮最高指導者の金正恩党総書記自身が、それも2回にわたって先制核使用を明言した。1回目は4月25日、軍創建記念日の軍事パレードの主席壇で行った演説で以下のように語った。
 「われわれの核戦力の基本的使命は戦争を抑止することだが、この地でわれわれが決して望まない状況が醸成される場合にまで、われわれの核が戦争防止という一つの使命にだけ束縛されるわけにはいかない。いかなる勢力であれ、わが国の根本的利益を侵奪しようとするならば、われわれの核戦力は意外なその第二の使命を断固果たさざるを得ない。共和国(北朝鮮を指す=筆者注)の核戦力は、いつでもその責任ある使命と特有の抑止力を稼動できるように徹底的に準備していなければならない」
 2回目は、軍事パレードを指揮した軍幹部らをねぎらう席で、「敵対勢力によって持続し、増大する核脅威を含む全ての危険な試みと威嚇的行動を、必要であれば先制的に、徹底的に制圧、粉砕する」と語った。
 内部情報によると、ウクライナでのロシア軍の予想外の苦戦を目にした金総書記と北朝鮮軍幹部は、旧ソ連製兵器で武装している北朝鮮軍が米軍抜きでも先端兵器で武装した韓国軍に敗れるのではないかという恐れと動揺にとらわれている。また、経済制裁と新型コロナウイルス対策の国境封鎖により軍直営の貿易会社の活動が出来なくなり、1990年代半ばから自給自足でまかなわれていた物資補給がほとんど停止したため、軍は著しく弱体化している。

 ●6月にも核実験再開か
 韓国の尹錫悦新政権が軍事圧力を強めると北朝鮮は瓦解しかねない。だから、核先制使用を繰り返し公言し、ミサイル実験を繰り返している。入り口付近を爆破した核実験場の復旧工事は当初の予定よりは遅れているがほぼ完成し、6月には実験が可能になるという。核恫喝以外に頼るものがない金総書記は、核実験に踏み切る可能性が高い。
 金総書記の核はプーチン・ロシア大統領の核と同様、通常戦争で追い込まれたときに使う手段だ。その恫喝を跳ね返すのは核抑止力しかない。我が国の核抑止力を早急に整備しなければならないと再度強調する。(了)