公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

有元隆志

【第920回】「ヒロシマ・サミット」に反対する

有元隆志 / 2022.05.16 (月)


国基研企画委員・産経新聞月刊「正論」発行人 有元隆志

 

 来年日本で開催される先進7カ国(G7)首脳会議(サミット)の開催地について、岸田文雄首相は広島市で開催する方向で調整に入っている。ロシアがウクライナを侵略し、核のどう喝も行っているなかで、核なき世界と平和の重要性を訴えるためにも被爆地広島での開催がふさわしいという。だが、ロシアや中国に対抗するためにも、G7が核を含む拡大抑止による連携を強化することが求められている時に、逆行する動きと受け取られる可能性がある。「ヒロシマ・サミット」には反対する。

 ●「核の傘」への依存
 首相は開催地について6月下旬に正式表明する。広島市のほか名古屋市と福岡市も立候補を表明している。日本でのサミットは東京のほか沖縄、北海道、伊勢志摩で開催されてきた。岸田首相の地元、広島では岸田氏が外相時代の2016年4月にG7外相会合が開かれた。翌5月末には「核兵器のない世界」を訴えたオバマ米大統領も広島を訪問した。
 広島は人類史上初めて原子爆弾が投下された都市であり、13万人以上の犠牲者を出し、被爆者は耐え難い苦しみを味わってきた。「このような思いは他の誰にもさせたくない」との思いから広島の人達は核兵器廃絶を訴えてきた。廃墟から蘇り、復興を遂げたのも広島だ。
 一方で、唯一の被爆国であり、核兵器を「持たず、つくらず、持ち込ませず」の非核三原則を掲げながら、米国の「核の傘」による拡大抑止に依存し、自らの防衛能力を怠ってきたのが日本だ。戦後、日本が平和だったのは戦争放棄、戦力不保持をうたう憲法9条があったからだと主張する人達もいるが、日米安全保障条約を結び、米国の「核の傘」の下にあることを忘れているだけである。
 G7参加国のうち米国、英国、フランスは核保有国であり、ドイツとイタリアは米国との核共有(シェアリング)で北大西洋条約機構(NATO)の核抑止政策を続けている。
 「核軍縮がライフワーク」という岸田首相は外相時代、核兵器を非合法化し、廃絶を目指す核兵器禁止条約の交渉参加に前向きな姿勢を示しながら、米国の「核の傘」に依存している現実を指摘され、慎重姿勢に転じたことがある。

 ●「重い判断」の共有
 欧州はロシアだけだが、日本は中国と北朝鮮の核兵器の脅威にも直面している。自民党の小野寺五典元防衛相は5月13日、国基研の櫻井よしこ理事長が主宰するインターネット番組「言論テレビ」に出演し、同月訪米して米政府当局者や有識者と会談した際、米側から「ロシアなどの核に対抗し、核兵器を使用する場合はNATOや日本とも事前に相談する。核兵器を使うかどうかの重い判断を一緒にしてくれ」と言われたことを紹介した。
 日本に問われているのは、核を巡る思考停止から目を覚ますことである。そして、ドイツのように自国の防衛力を大幅に強化することである。広島でサミットを開催し、岸田首相が核兵器の使用を許さないと世界に向けて訴えても、何ら説得力を持たない。(了)