来日中のバイデン米大統領は「インド太平洋経済枠組み」(IPEF)の発足を発表した。昨年10月に構想を明らかにして以来、関係国と協議を重ね、ようやく「中身の議論を開始する」スタートラインに立った。しかし、果たしてうたい文句である「新たな経済圏」の構築につながるのか。
●日本がIPEFの橋渡し役
中国の環太平洋経済連携協定(TPP)への加入申請などの攻勢に対してバイデン政権は無策だと、米議会からの批判も強い。一方、米国世論は自由貿易への拒否反応が強く、TPPへの復帰は国内政治的にあり得ない。そこで苦肉の策としてひねり出したのがIPEFの構想だ。
問題はどこまで幅広くアジアの国々を巻き込めるかだ。トランプ前政権がアジア軽視の印象を与えただけに、アジア諸国はバイデン政権の関与増大を率直に評価する。しかし、米国がルールを押し付けることへの警戒感は強い。さらに中国への対抗を前面に押し出す米国と中国の間で選択を迫られることを嫌う。
そうした中で、日本はアジアと米国の「橋渡し役」という重要な役割を担った。米国には、新たな経済枠組みでは「交渉でなく議論を行う」とのソフトな位置づけにすべきだと注文を付け、アジア諸国には議論への参加を呼び掛けた。米国も面子をかけて働き掛けを強め、慎重姿勢だったインドや東南アジア諸国連合(ASEAN)の7か国を含め13か国が参加することになった。
しかし、IPEFはまだスタートラインに立ったに過ぎない。TPPのように「米国市場へのアクセス」を提供しないだけに、課題はアジアの国々に具体的な「実利」を示すことができるかだ。途上国にとっては理念やルールよりも実利が大事だ。中国は巨大な中国市場へのアクセスや広域経済圏構想「一帯一路」に基づく資金援助など徹底して実利で迫る。
IPEFの対象分野は、①貿易②供給網③インフラ整備・脱炭素④税・反腐敗―の4本柱とされる。このうち参加したい分野を選べるとして、参加のハードルを下げることに腐心している。
だが、「貿易」は関税引き下げなど貿易自由化を含まず、画竜点睛を欠く。「税・反腐敗」に至っては、米民主党左派の要求そのもので、一体何をしたいのか首をかしげる。
●「半導体の供給網」が連携の焦点に
今後の焦点は、IPEFが供給網とりわけ半導体の供給網の強靭化にどれだけ役立つかだ。
世界的な半導体不足、ロシアによるウクライナ侵攻による供給網の分断などに直面して、アジアの国々にとっても半導体の供給網の強靭化は至上命題だ。韓国も半導体供給の重要なプレーヤーで、訪韓したバイデン大統領はサムスン電子の半導体工場へ異例の視察までしている。中国も「供給網の分断があってはならない」と韓国に強くくぎを刺して、神経をとがらせている。
アジア各国に半導体の生産拠点はあるが、データに関する国際的な連携を進めることによって供給途絶のリスクに共同で対処することも必要だ。
日本はIPEFを、単に米国主導へのお付き合いではなく、日本企業が活動するアジアでの成長戦略とすべきだ。(了)