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今週の直言

有元隆志

【第922回】防衛費増額は少なくともドイツ並みに

有元隆志 / 2022.05.24 (火)


国基研企画委員・産経新聞月刊「正論」発行人 有元隆志

 

 岸田文雄首相は23日のバイデン米大統領との首脳会談で、日本の防衛力を抜本的に強化し、防衛費の「相当な増額」(substantial increase)を確保する決意を伝え、共同声明にも盛り込まれた。これまで岸田首相は防衛費について「金額、結論ありきではなく、現実的な議論の結果として必要なものを(予算に)計上する」(1月21日の参院本会議答弁)と述べるにとどまっていた。それに比べると、踏み込んだ発言とは言えるが、具体的な数字には触れなかった。

 ●「GDP比2%」に触れなかった首相
 自民党の安全保障調査会(会長・小野寺五典元防衛相)が4月末に首相に提出した提言では、加盟国の防衛予算を「対国内総生産(GDP)比2%以上」とする北大西洋条約機構(NATO)の目標を念頭に、「5年以内に必要な予算水準の達成を目指すこと」を明記した。小野寺氏は5月に訪米し、米政府当局者らに提言を説明した。概ね歓迎されたが、「日本を取り巻く安全保障環境はドイツ以上に厳しい。2%では足りない」との感想も米側から漏れた。
 ドイツは2021年度に470億ユーロ(約6兆1100億円)、GDP比1.5%だった防衛予算を、ロシアのウクライナ侵略後、GDP比2%超に引き上げることを決めた。我が国の今年度の防衛費は補正予算と合わせると初めて6兆円の大台に乗ったが、GDP比1.09%に過ぎない。自民党の提言はドイツに比べると5年以内にGDP比2%と悠長だが、それですら与党内では公明党が慎重姿勢を示している。政府関係者は「バイデン大統領に『相当な増額』と明言した以上、ドイツ並みに増やすのが最低限ではないか」と語る。ドイツのように明確な道筋を示していくことが岸田首相には求められる。

 ●米の防衛約束に安住するな
 首脳会談で、岸田首相は日本で来年開催される先進7カ国(G7)首脳会議(サミット)を広島市で開催する意向を伝えた。首相は共同記者会見で「広島ほど平和へのコミットメントを示すのにふさわしい場所はない」と強調した。筆者は5月16日付の本欄で「ヒロシマ・サミット」に反対した。核廃絶を求めることは重要であるが、それよりも国連安保理常任理事国であるロシアが核の脅しをし、中国は核能力を高め、北朝鮮も核武装をしている中で、核の抑止力の重要性がむしろ増している。
 安倍晋三元首相は20日、国基研の櫻井よしこ理事長が主宰するインターネット番組「言論テレビ」に出演し、小野寺氏が訪米した際、「ロシアなどの核に対抗し、米国が核兵器を使用する場合はNATOや日本とも事前に相談する」と言われたことを紹介し、「現実から目をそらすな、核使用について共同責任でやっていこう、ということだと受け止めなければいけない」と語った。「核の傘」は米国任せでなく、責任を分かち合う覚悟が求められる。
 同盟関係はお互いの信頼が基盤である。バイデン大統領は「日本の防衛に完全にコミットする」と表明したが、日本がそれに安住している時代は終わったのである。(了)
 
 

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