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湯浅博

【第923回】海洋監視強化で安保協力に近づいたクアッド

湯浅博 / 2022.05.30 (月)


国基研企画委員兼主任研究員 湯浅博

 

 バイデン米政権の戦略目標は、21世紀が独裁国家優位の時代になるのを防ぐことにある。ロシアのウクライナ侵略戦争によって、分裂気味だった北大西洋条約機構(NATO)が強化され、インド太平洋でも対中抑止を念頭におく日米豪印の4カ国戦略対話(クアッド)が大きな一歩を踏み出した。今後、中露枢軸を封じ込めるには、クアッドと欧州、アジアの有志国との連携を深めなければならない。

 ●インドの取り込みに腐心した日本
 台湾に対する中国の軍事的脅迫と、ウクライナ国境へのロシア軍の集結は、年明けから同時に進んだ。ウクライナ戦争は、米国に中国との大国間競争に集中する余裕を与えない。米国が「欧州正面」に気を取られれば、「アジア正面」の最前線にある台湾の防衛に動く米国のパワーが削がれることになる。
 しかも、中国の台湾攻撃を抑止するはずのクアッド内で、不協和音が目立っていた。ロシアへの経済制裁に動いた日米豪に対して、ロシア製の兵器に依存するインドが対露非難を控えた。東京で開催されたクアッド首脳会議で、議長国の日本は調整に腐心した。会議後に出された共同声明は、「ロシア」を名指しこそしないものの、インドの姿勢をこれまでになく日米豪の側に近づけたと言える。
 共同声明では「ウクライナでの悲劇的な紛争が激しさを増す中」として明示的にウクライナを取り上げ、「武力による威嚇または武力の行使や現状を変更しようとするいかなる一方的な試みに訴えることなく紛争を平和的に解決する」と明記した。
 インド太平洋の安全保障は、米英豪による新たな枠組み「オーカス」が軍事的な共闘を軸とする「ハード・アライアンス」(強固な軍事同盟)であるのに対し、クアッドは非軍事的協力を中心に中国と対抗する「ソフト・アライアンス」(柔軟な同盟)とみなされてきた。米国はインドに配慮してクアッドの軍事色を薄めながら、徐々にトーンを変化させてきた。
 特に今回のクアッド首脳会議で、人道・自然災害や主に中国漁船の違法操業への対処を目的とする「海洋状況把握のためのインド太平洋パートナーシップ」(IPMDA)の立ち上げで合意したことは、安全保障分野での協力に近づいたと言ってよい。各国ともMDAには軍が関わり、情報収集や海上輸送など軍事作戦を行う場合と共通項が多い。

 ●欧州、アジア有志国と一層の連携を
 米国が相対的な衰退に向かう現実の中で、クアッドは欧州、東南アジアの有志国と連携して、中国との勢力均衡を図ることが必須になるだろう。その場合、バイデン大統領が繰り返す「民主主義対専制主義」のレトリックは、連携への足かせになりかねない。
 中露を封じ込めるには、イデオロギーよりも地政学を優先させ、シンガポール、トルコ、ベトナムの非民主的国家との協調が欠かせない。また、エネルギー安全保障のためには、サウジアラビアはじめ独裁的な君主国家である湾岸産油国との調整を必要とする。クアッドを「自由で開かれたインド太平洋」の推進役として定着、機能させなければならない。(了)