先週の日米首脳会談、インド太平洋経済枠組み(IPEF)の発足、日米豪印(クアッド)首脳会議の開催という一連の動きは、国際経済秩序にとって大きな意義を有する。そこには変革への胎動を見いだすことができる。
●重層的な経済安保の枠組み
第1に、国際経済秩序が掲げる旗印がこれまでの「貿易自由化」から「経済安全保障」へとシフトしつつある。これは、米中対立による経済の分断、コロナ禍やロシアのウクライナ侵略で直面した供給リスクなども背景だ。また、環太平洋経済連携協定(TPP)から米国が、地域包括経済連携協定(RCEP)からインドがそれぞれ離脱して、市場開放を忌避する両国が新たな枠組みに参画する必然の結果でもある。
そして、その「重層的な全体像」が浮かび上がる。日米が経済版2+2(外務・経済担当閣僚協議)を立ち上げ、クアッドでオーストラリアとインドを加え、IPEFではさらに韓国、東南アジア諸国連合(ASEAN)7カ国などを加える。そして経済安全保障のメニューを「中国への対抗」の濃淡で使い分ける。
具体的には、先進技術を有する日米間では輸出管理や研究開発での協力、クアッドではインドが関心を示す第5世代通信規格(5G)や、半導体の供給網、サイバーセキュリティ―での協力、IPEFではアジア各国がコロナ禍、世界的な半導体不足で直面した供給網の強靭化の協力などを進める。
●日本のアジア戦略が土台
第2に、西側先進7カ国(G7)と中ロの権威主義国の対立・分断が深まる中、途上国を新たな国際経済秩序にいかに巻き込むかがカギになる。とりわけ日本はアジアの一員としてアジアと欧米の「橋渡し」をする重要な立ち位置にある。IPEFはその試金石だ。そのためには、欧米の価値観やルールを押し付けることなく、アジアの実情を踏まえた「実利のある取り組み」ができるかどうかが問われる。
例えば脱炭素をめぐっては、当面は化石燃料に依存せざるを得ないアジア各国の実態に応じて、欧米流の再生可能エネルギー偏重ではなく、2050年のカーボンニュートラル達成までの「現実的な移行」を資金・技術面で支援していく。
デジタル貿易の分野でも、最初から「ルール作り」を前面に出して押し付けるのではなく、まずデジタル技術を活用したアジアでのビジネス展開を支援して、その結果、ルールにつなげていくのがよい。
供給網についても、戦略物資のデータに関する国際連携を進めることによって、供給途絶のリスクに対処することができる。
これらの分野では、いずれも日本がアジアに対してビジネスに直結する形で「実利」を提供する取り組みに着手している(「アジア未来投資イニシアティブ」と「アジア・エネルギー・トランジション・イニシアティブ」)。今後、こうして日本がすでに作りつつあるものをIPEF用にアレンジして提供することになるだろう。IPEFは米国の構想に追随するものだとの批判は当たらない。むしろ実態は、日本によるアジアの成長戦略に米国を引き込もうとしているのだ。(了)