公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

細川昌彦

【第933回】歴史を参考にすべき国際経済秩序作り

細川昌彦 / 2022.06.20 (月)


国基研企画委員・明星大学教授 細川昌彦

 

 今、西側諸国と中露の対立を背景に、国際経済秩序が「分断の時代」を迎えている。対露経済制裁が顕在化させたのは、西側先進7か国(G7)の結束とともに、新興国・途上国の西側からの乖離だ。こうした状況で秩序作りをどう進めるべきか。それを考えるうえで歴史を参考にしたい。冷戦終了直後の輸出管理のワッセナー・アレンジメントと1980年代末のアジア太平洋経済協力(APEC)の創設とその後の経過が参考になる。いずれの国際枠組みも、私自身その設立に関わったので紹介しよう。

 ●日米欧の結束
 対露経済制裁において日米欧は共同歩調でかつてない大規模なハイテクの禁輸措置を行った。米国はこの成果を「グローバル輸出管理連合」と呼んで、さらに対露制裁を越えた枠組みへの発展を示唆している。
 冷戦期における対共産圏輸出統制委員会(ココム)が終了し、ポスト冷戦の輸出管理は兵器の不拡散を目的にしたワッセナー・アレンジメントへと衣替えした。当時、ロシアの参加が重要な狙いであった。そして30年近く経た今日、加盟国も多くなり、合意形成は困難となった。地政学的な変化に対応して、再度新たな輸出管理体制に作り替える必要に迫られている。日米欧という価値観を共有する技術保有国による、中露を念頭においた輸出管理体制だ。
 5月の日米首脳会談では、共同声明において半導体やサイバー監視システムの輸出管理の協力が明記された。輸出管理が日米首脳の共同声明に取り上げられたのは初めてだ。また、日本政府の経済財政運営の指針「骨太の方針」でも、日米欧による輸出管理の新たな枠組みの構築に取り組む姿勢を明確にしたことは評価できる。これはポスト冷戦の終了を象徴する秩序作りとして歴史的な転換点だ。

 ●アジアの取り込み
 一方、新興国・途上国の乖離が明らかになって、これらの国々をいかに取り込むかが重要だ。米国が主導するインド太平洋経済枠組み(IPEF)もそうした視点で重要だが、参考になるのがAPECだ。80年代後半における欧州の経済統合、北米自由貿易協定の動きへの危機感から、日本は経済のブロック化を牽制する必要があった。APECを創設する経産省の発案に外務省の反対があって、やむなく豪州に提唱を働きかけた。
 APECにはIPEFと相通じる重要な要素があった。①米国にアジアに関与させる狙い②「開かれた地域協力」を掲げて、協力に力点を置くこと③東南アジア諸国連合(ASEAN)の主要6か国を含めた12か国でスタートさせたこと―などだ。その後、APECに中露も参加して、参加国・地域が21となった現在、分断されて共同声明も採択できずにいる。まさに新たな枠組みへの作り替えを必要としているのだ。
 かつてと違って米国の求心力は低下し、民主党左派の影響も懸念されるだけに、日本の役割は大きい。
 このように国際経済枠組みは機能不全に陥り、新たな仕組みを必要としている。G7の一員であり、アジア国家でもあるという立ち位置を「車の両輪」とする日本は、大きな課題を背負っている。(了)