公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

太田文雄

【第932回】メア氏の提案に賛成する

太田文雄 / 2022.06.20 (月)


国基研評議員兼企画委員 太田文雄

 

 ケビン・メア元米国務省日本部長が自衛隊の国産ミサイル「12式地対艦誘導弾」をロシアに侵略されたウクライナに供与するよう提案した。軍事的見地からと国際的な責務という観点から賛成したい。
 6月半ば、ウクライナは英国とデンマークから供与されたばかりの米国製の対艦ミサイル、ハープーンで黒海のロシア海軍タグボートを破壊したと発表。米政府もウクライナ向け追加軍事支援の一環として、ハープーン2基を初めて供与すると発表した。メア氏の提案は、こうした米欧の対艦ミサイル供与の動きと連動したものとなる。

 ●兵器は実戦を経て進化する
 12式地対艦誘導弾は2012年度から防衛省で調達が開始され、鹿児島県の奄美大島や沖縄県の先島諸島などの陸上自衛隊駐屯地に配備されている。現在、射程は約200キロで米軍が開発したハープーンと同程度であるが、当面900キロ、最終的には1500キロまで射程を伸ばす構想がある。地上発射のみならず海上自衛隊の艦船や航空自衛隊の航空機から発射できるようになれば、対中抑止の切り札になる。
 米軍の兵器が有効なのは、数多くの実戦を経て改良を重ねているからである。日本の場合、国産兵器は実戦を経ることなく、使用される際は「ぶっつけ本番」となる。ウクライナへの供与は、国産ミサイルの改良に寄与するだろう。
 2014年に、それまでの「武器輸出三原則」に代わり「防衛装備移転三原則」が閣議決定された。ロシアによるウクライナ侵略では、この防衛装備移転三原則の範囲内で、日本政府はウクライナから要請を受けた防弾チョッキやヘルメット、化学戦対応の防護マスクと防護衣、それにドローンを例外的に供与した。
 ウクライナ国産の対艦ミサイル、ネプチューンが4月、ロシア黒海艦隊の旗艦「モスクワ」を撃沈した。ネプチューンの射程は約300kmであるのに対し、12式地対艦誘導弾の射程伸長型を供与できれば、ロシア海軍の軍艦はウクライナ沿岸から遠く離れざるを得ない。それがウクライナの穀物輸出を促進し、ひいてはメア氏が指摘するように世界的な食糧難を解消する一助となるのではないか。
 
 ●東アジアで欧州の軍事支援を得るため
 昨年、英国のクイーン・エリザベス空母機動部隊をはじめとして、フランスやドイツの軍艦が東アジアに派遣され、中国の力による現状変更の試みに軍事力をもって対応する姿勢を示してくれた。我が国としても、こうした欧州諸国の支援を歓迎している。しかし、欧州におけるロシアの現状変更の試みに防弾チョッキ等の供与で済ませ、東アジアにおける中国の現状変更の試みには欧州諸国に軍事力の供与を期待するのはあまりにも身勝手で、国際的に許されまい。
 米欧はウクライナに兵器を供与する場合、第三国で操作法を教育・訓練している。日本が12式地対艦誘導弾を供与する際も、教育・訓練は必要となる。防弾チョッキ等の装備品の輸送に際しては航空自衛隊の輸送機でウクライナの隣国ポーランドに輸送したことから、操作法を教える自衛隊員若干名を輸送することは物理的には可能であろう。(了)