公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

田村秀男

【第937回】習氏の対露協力を放置したG7サミット

田村秀男 / 2022.07.04 (月)


国基研企画委員・産経新聞特別記者 田村秀男

 

 先週は欧州で先進7カ国首脳会議(G7サミット)がドイツで、続いて北大西洋条約機構(NATO)拡大首脳会議がスペインで開かれ、岸田文雄首相が出席した。最大の懸案はウクライナへの侵略を続けるロシア対策だが、一連の首脳声明は威力に欠ける。プーチン・ロシア大統領の盟友でロシアの外貨確保に協力する習近平中国国家主席(共産党総書記)を押さえ込む意志が薄弱なのだ。

 ●戦費の多くを中国が実質的に提供
 G7声明は東シナ海・南シナ海、台湾海峡での中国の行動を牽制してはいる。NATO共同宣言では中国を西側に対する「挑戦」だと触れた。しかし、具体性のない外交上の修辞にはびくともしないのが独裁国家中国である。
 中国が最も恐れているのは西側による「2次制裁」である。中国の金融機関や企業はロシアとの取引拡大に慎重姿勢を示す。3月から5月までの対露輸出総額は前年同期比で15%減った。が、だまされてはいけない。
 輸入は同53%増で月を追うごとに加速し、5月は同80%増である。最大の輸入品目は原油であり3カ月合計で151億ドルに上り、同72%増である。輸出に対する輸入超過額は3カ月計150億ドルだ。ちなみに2021年のロシアの国防支出は484億ドル、原油輸出総額は1100億ドルである。このままのペースだと輸入超過額は年間で600億ドルとなり、ウクライナ戦争でかさむロシアの国防支出の財源の多くを中国が実質的に提供することになりそうだ。
 G7首脳声明の対露追加経済制裁の目玉は、ロシア産石油について輸入価格の上限を設定し、それ上回る価格での輸入禁止を検討することだ。日米欧のロシア産石油の段階的禁輸に伴う石油価格上昇を食い止める狙いだという。しかし、中国には痛くもかゆくもない。中国のロシア産原油価格はすでに国際標準相場よりも2割近く安いのだ。

 ●ルーブル相場も下支え
 日米欧による金融制裁効果も中国の対露協調によって薄められ、6月下旬ではロシアの通貨ルーブルの対ドル、ユーロ相場はウクライナ前よりも高くなっている。侵略前に6000億ドルを超えていた外貨準備の減少も1割弱で済んでいる。中国はロシアからの輸入を急増させているばかりでなく、約1000億ドル分のロシア外準を預かり、ルーブル相場下支えに協力している。
 G7首脳声明は以上の中露蜜月関係を素通りし、ロシア軍のウクライナからの即時撤退を求めるよう中国に要請している。中国が対露協力を打ち切らなければ制裁を科すと言わない限り、習氏には馬耳東風同然だろう。アジア代表である岸田首相は米欧の話を聞くだけだったのか。(了)
 
 

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