自民党の大勝に終わった参院選は、同時に野党の存在意義を問い直すこととなった。野党第1党の立憲民主党が改選23議席を大きく割り込んだのは、現実的な安全保障政策を打ち出さなかったことも大きい。
●ドイツ社民党との違い
立憲民主党の泉健太代表は記者会見で「今の自民党の政治に不満はあれども、それ以外に政権を任せられる勢力になり得なかった」と語ったが、選挙前から予想されたことだ。安倍晋三元首相の暗殺という衝撃的な事件が投票日直前に起き、同情票が自民党に集まった面もあるが、事件がなくても立憲民主党が議席を伸ばすことはなかったであろう。
ロシアのウクライナ侵略を受けて、ドイツ社民党、緑の党が率いる中道左派連立政権は国防費倍増、ウクライナへの武器輸出を決めるなど防衛政策を大転換した。それとは対照的に、立憲民主党は「生活安全保障」を公約に掲げ、「日米同盟の役割分担を前提とした着実な防衛力整備を行う」と主張したものの、集団的自衛権の行使を限定的ながら認めた安全保障関連法制について、「違憲部分の解消を目指す」との方針を変えることはなかった。
立憲民主党は日米同盟を深化させた同法について、どこが違憲部分か示すことすらせず、反対の立場を変えなかった。これでは政権を任せようということにはならない。
比例代表の獲得議席数で立憲民主党に代わって野党第1党となったのは日本維新の会だった。維新の会は改選6議席から伸ばした。同党は憲法改正を掲げており、非改選を含めて改憲勢力が参院の3分の2を上回った。維新の松井一郎代表は記者会見で「自民党は『安倍元首相の遺志を引き継ぐ』として、大きな民意を得た。約束を守り、具体的な議論をしてほしい」と語った。
松井氏は「以前よりは力をいただけた。令和の時代に合う改革をしていく」と語ったが、日本が直面している安全保障上の危機にいかに対応するかは与党も野党もない。維新には改憲に向けた論議に積極的に参加し協力してほしい。
●労組の在り方の変化
今回の選挙戦では、全国最大級の労働組合であるトヨタ自動車グループの労働組合でつくるトヨタ労働組合連合会(全ト)が、政策面で連携する政党を野党に限定せず、超党派の協力を加速させたように、労働組合イコール野党支持という構図ではなくなった。
政権批判をすれば野党としての存在感を示せるという時代は終わった。政権批判票を待っているのではなく、安全保障、エネルギー政策など「今そこにある危機」に対応する力を構築することが野党には求められている。(了)