6月30日、ロシアのプーチン大統領は、日本の商社が出資する極東サハリンの石油・天然ガス開発事業「サハリン2」の運営権をロシア政府が設立する新法人に移行する大統領令に署名した。現在サハリン2の権益すなわち株式資産を有する外国企業は、ロシア側が示す条件に同意すれば新法人の株主として参画できる。同意しなければ、サハリン2からの撤退を余儀なくされ、権益はロシア側に接収される。
これは明らかにウクライナ戦争で対ロ制裁に加わる日本への「揺さぶり」ないし「脅し」だが、こうした揺さぶり、脅しは日本に対してだけ行われているのではない。6月中旬にはドイツに天然ガスを供給するパイプラインの供給量を60%減らした。ロシア側は「ドイツからの補修部品がないことによる技術的な問題」としたが、額面通りに受け取る者はいない。
●撤退は電力ひっ迫に直結
ロシア側の条件は不透明で、権益が維持されるかどうかは現在行われている水面下の駆け引き次第だ。現在、日本の電力・ガス会社はサハリン2の液化天然ガス(LNG)の長期の調達契約を締結している。調達がすぐに止められるわけではないが、見直される可能性はある。従って、新法人に株主として参画しておくことはロシア側を牽制するうえでも重要だ。
サハリン2からのLNG調達は日本が輸入しているLNGの約9%を占め、そのうちの約半分は発電用だ。これは電力量の約2%に相当する。電力需給がひっ迫して綱渡り状態という日本の現状を狙い撃ちした面もあろう。停電を避けるためには最大電力需要の予測に対して電力供給の予備率が3%必要とされるが、この夏以上に今冬の状況は厳しく、来年以降も綱渡りが続く。これに2%の供給減が加われば、停電を覚悟しなければならない深刻な事態だ。
●代替なくしてエネルギー安保なし
今後の対応のポイントはサハリンからのLNG輸入の代替可能性だ。世界のLNG市場では脱炭素の動きとロシアのウクライナ侵攻が重なって、し烈な争奪戦が繰り広げられている。その結果、2025年までは長期契約を締結できる可能性はまるでない。日本が必死に掛け合っても2026年以降の供給になる。
それまでは通常の4~5倍にも価格が高騰しているスポット取引での調達になってしまう。すると、調達コストは年1兆円を超え、それは最終的に高騰し続ける電力料金に上乗せされ、国民生活を揺るがす。
「ロシアのような信頼できない国からは即刻撤退すべきだ」との論調も散見される。心情的には理解できる。しかし、そう主張できるのは、代替の目途があれば、だろう。目途がないうちに撤退すべきだと言うのは、エネルギー安全保障の観点から無責任だ。国益のためには、ここは耐えてロシアから天然ガスを買い続ける可能性を探るべきだ。
ただし、もちろんいつまでもロシアに依存すべきではなく、中長期的には脱ロシアは不可避だ。(了)