公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

奈良林直

【第939回】過度の再エネ優先が招いた電力逼迫

奈良林直 / 2022.07.04 (月)


国基研理事・北海道大学名誉教授 奈良林直

 

 6月下旬の35度を超える酷暑の中で、東京電力管内に電力需給逼迫ひっぱく注意報が連日発令された。寒波が到来した3月に一段上の「警報」が出されたのに続く事態だ。電力が不足する根本的な原因は、静岡県の浜岡原子力発電所から北の多数の原発が再稼働していないことにある。つまり、原発への依存度をできる限り減らし、不安定な太陽光などの再生可能エネルギー(変動再エネ)を優先する方針、さらには電力自由化といったわが国のエネルギー政策が全て裏目に出ているのだ。

 ●依然大きな火力発電比率
 太陽がカンカン照りで太陽光発電の出力が上がっているのに電力需給がひっ迫するのはなぜか。太陽光発電は午前9時から午後3時ごろまでは元気だが、そのあと急激に出力が下がるため、蒸し暑くて冷房需要が高い夕方の時間帯に電力不足になるからだ。
 再エネが増えると火力発電所の設備利用率が下がって採算が悪化するので、電力自由化により合理化を迫られた各電力会社は老朽化した火力発電所を大量に廃止した。全国で1600万キロワット分が廃止された。しかし、太陽光や風力発電は出力の変動が大きいので、主として火力発電所を使って補う必要があり、我が国の火力発電の電力シェアは依然として74%もある。そのため、二酸化炭素(CO2)の排出量はほとんど減らない。
 ドイツは再エネ導入の旗手のように振る舞っていたが、メルケル前首相はロシアとドイツを直接つなぐ天然ガスのパイプラインを建設し、石炭火力発電所を減らして天然ガス火力発電所を増やしただけだ。再エネ比率を46%まで増加させてもCO2削減は無理だった。
 ロシアのウクライナ侵攻により天然ガスや石油の高騰が起き、火力発電所の比率が高いドイツや我が国では電気代も高騰する。電気代の上昇は工場で生産される食品の値上げに波及し、生活弱者を直撃している。

 ●原子力優先政策への転換が必要
 我が国は電力需給逼迫が珍しくない国となった。今年の夏も来年の冬も状況は厳しいとされる。岸田文雄首相は直ちにわが国のエネルギー政策を見直し、安全性を高めた原発の活用による低廉で安定的な電力供給を通じ我が国の経済と産業を成長軌道に乗せることが必要である。
 政府が用意した脱炭素のための投資資金150兆円は、CO2削減効果の低い変動再エネに重点的に振り向けるのではなく、安定した電力供給ができる原発を活用することが重要だ。安全性の高い小型モジュール炉(SMR)や最新型炉の開発と建設を急ぐべきである。50兆円あれば1基5000億円の原発を100基建設できる。残りの100兆円を、水素発電のための水素や、CO2を使った合成燃料を製造する設備投資に回すのがよい。
 150兆円をこのように使えば、2050年までのカーボンニュートラルは達成できる。CO2の排出量が少ないフランスが原発回帰の代表で、マクロン大統領は大型の欧州加圧水型炉(EPR)を最大14基建設すると宣言し、英国も追従している。さらに欧州や東南アジアの多くの国で原発導入の動きが出ているのだ。(了)
 
 

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