安倍晋三元首相の暗殺で、警備体制の見直しとともに、危機管理の在り方も問われている。日本は来年5月に先進7カ国首脳会議(G7サミット)を広島で開催するが、危機管理体制を抜本的に見直さないと、失墜した警備への信頼を取り戻すことはできない。
●開催されなかったNSC
7月8日、安倍元首相が銃撃されたことを受けて、岸田文雄首相をはじめ閣僚らは直ちに帰京し、官邸に集まった。岸田首相はこの後、自民党幹部らと会い、記者団の質問に答えたが、国家安全保障会議(NSC)を緊急に招集することはなかった。組織的犯罪ではないとの情報が早くから流れ、NSC案件ではないとの見方をしたからだろう。だが、早くから決めつけていいのだろうか。事件の連鎖を防ぐためにも、あらゆる可能性を排除せずに取り組むことは、危機管理の基本ではないのか。
ある政府当局者は構造的な問題点も指摘する。「内閣には危機管理監というポストがありその下に内閣官房副長官補(事態対処・危機管理担当)が率いるいわゆる『事態室』がある。今回のようなケースはNSCではなく事態室の案件となる」(同当局者)という。もっとも、首相動静を見る限り、事件後、村田隆危機管理監が首相と面会した記録はない。官邸内は内廊下で結ばれ、首相動静に載らなくても首相と面会できるが、今回のようなケースで面会を隠す必要はない。
●要人警備体制の刷新も必要
米ホワイトハウスでは危機対応はNSCに一本化されているが、日本では省庁間の縄張り争いの結果、NSCの事務方トップである国家安全保障局長と内閣危機管理監が並立している。内閣危機管理監は1995年に起きた地下鉄サリン事件や、國松孝次警察庁長官(当時)狙撃事件などの重大事件が相次ぎ、危機管理強化の必要性から設置された。ただ、危機管理監は機能していないとの批判が強い。米国のように危機管理体制はNSCに一本化すべきだ。
同時に、首相はもちろん元首相も含め、警備を警視庁に所属するSP(警護官)や県警任せにすべきではない。米国のシークレットサービス(大統領警護隊)のように中央政府がもっと責任を持って対応する体制への移行を早急に検討する必要がある。(了)