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有元隆志

【第1016回】キーウ訪問しない指導者に「平和」語る資格なし

有元隆志 / 2023.02.27 (月)


国基研企画委員・月刊正論発行人 有元隆志

 

 2月のバイデン米大統領、メローニ伊首相のキーウ訪問により、先進7カ国(G7)首脳でウクライナを訪れていないのは岸田文雄首相だけとなった。岸田首相はキーウ訪問の機会を探ってきたが一向に実現していない。岸田首相は5月のG7首脳会議(広島サミット)で議長を務めるが、キーウを訪れる勇気もない指導者が「平和」や「核廃絶」を語っても説得力はない。
 キーウ訪問はロシアという侵略者と戦うウクライナとの連帯の意思を明確にする象徴的な意味を持つ。指導者がキーウを訪れもしない国のために、台湾危機が起きた時、欧米が救いの手を差し伸べてくれるだろうか。

 ●「一国平和主義」の残滓
 岸田首相は24日の記者会見で「安全確保や秘密保護等の諸般の事情を踏まえながら検討を行っている」と述べるにとどまった。日本国内では、野党第1党の立憲民主党の泉健太代表が「秘匿して行く必要があるのか。国会の了承を得て堂々と行くのも一つの姿だ」と述べるなど、国際社会の現実とはかけ離れた議論が展開され、自分の国さえ平和で安全であればいいとの「一国平和主義」が根強く残っていることを印象付けた。
 そうした戦後体制からの脱却を目指し、安倍晋三政権下で限定的ながら集団的自衛権の行使を認める安全保障関連法制が整備されたのに続き、岸田首相は昨年12月、国家安全保障戦略をはじめ安保3文書の改定と防衛費の大幅増に踏み切った。このこと自体は評価されるべきだが、ウクライナ訪問をめぐる岸田首相の対応をみていると、先祖返りしたのではないかと思えてしまう。

 ●「核抑止」の先頭に立て
 岸田首相はG7サミットの会場を広島に選んだ。岸田首相の地元・広島には米軍により原爆が投下され、首相の親族も被爆した。岸田首相自身は東京育ちだが、夏休みになると帰省し、8月6日の「原爆の日」を広島で迎えていた。「祖母・和子が私をひざ元に呼んでは、あの日広島で起こった悲惨な出来事のことを問わず語りに話してくれた」(岸田首相の著書『核兵器のない世界へ』より)という。G7首脳を広島に招くことで、核廃絶の機運を高めたいというのが岸田首相の狙いだ。
 だが、世界はいつ核が再び使われるかもしれないという危機的な場面に直面している。その最前線がウクライナなのだ。岸田首相はロシアのプーチン大統領による核の脅しに晒されているウクライナの現実を自らの目で見るべきだ。そして核廃絶という目標は降ろさないにしても、核抑止の先頭に立つ責務がある。二度と広島・長崎の惨禍を繰り返さないためにも。(了)
 
 

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