公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

西岡力

【第1017回】迫り来る北朝鮮の核脅威を直視せよ

西岡力 / 2023.02.27 (月)


国基研企画委員兼研究員・麗澤大学客員教授 西岡力

 

 我が国ではほとんど取り上げられないが、朝鮮半島で核をめぐる軍事緊張が急速に高まっている。北朝鮮が米国と韓国、日本への核攻撃を想定した演習を続け、それに対して日米韓が北朝鮮を牽制する軍事演習を繰り返している。それを受けて韓国内では、米国の核の傘への信頼が薄れ、独自核武装論が台頭している。

 ●相次ぐ米韓標的の核攻撃演習
 北朝鮮は2月18日に大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星15」を発射し、「人民軍ミサイル総局大陸間弾道ミサイル運用部隊の発射演習」と発表した。昨年11月の同「火星17」発射は「国防科学院の試射」とされ、まだ開発段階だったが、「運用部隊の発射演習」とされた火星15は既に実戦配備されている。つまり米国を標的にした核攻撃演習だったのだ。
 19日、米空軍の戦略爆撃機B1BとF16戦闘機が、日本海上空で航空自衛隊F15と、韓国防空識別圏内で韓国空軍のF35A、F15K戦闘機と、それぞれ合同演習を行った。
 20日、北朝鮮は短距離弾道ミサイルを日本海へ向けて発射し「戦術核運用部隊の発射演習」だったと公表した。つまり、韓国への核攻撃演習を公然と行ったのだ。同日、金正恩朝鮮労働党総書記の妹で事実上の北朝鮮ナンバー2である金与正党副部長が、火星15は大気圏再突入に失敗したとする韓国の専門家らの主張を激しい言葉で罵り、「もし弾頭の大気圏再突入が失敗したなら、着弾瞬間まで弾頭の信号を受信できなくなる」として、成功を強調した。
 22日には米国防総省で、北朝鮮の核使用を想定した米韓合同の机上演習が実施された。米国による核報復の演習だ。同日、日本海では日米韓のイージス艦が弾道ミサイル対処共同訓練を行った。イージス艦は北朝鮮の核ミサイルを迎撃する能力を持つ。日本からは護衛艦あたご、米国からは駆逐艦バリー、韓国からは駆逐艦セジョン・デワンが参加した。
 23日、北朝鮮が今度は巡航ミサイルを発射し、「核抑止力の重要構成部分の一つである戦略巡航ミサイル部隊による共和国核戦闘武力の臨戦訓練」であると公表した。

 ●韓国で強まる独自核武装論
 韓国は危機感を強めている。既に1月11日に尹錫悦大統領は「(北朝鮮核問題が)より深刻化したならば、韓国に戦術核配置をするか、われわれが自前の核を保有することもできる」と発言した。その時点から明らかに事態は深刻化している。
 韓国の有力紙朝鮮日報は2月20日の社説「ICBMの実戦配備を終えた北朝鮮、韓国に残された選択肢は何か」で、火星15が大気圏再突入に成功した可能性に言及し、「北朝鮮の核の効用性を一瞬でゼロとする方法は韓国独自の核保有しかない。他の選択肢が全て無意味となる瞬間が徐々に近づいている。」と書いた。
 北朝鮮は朝鮮戦争休戦直後の1950年代から核開発を続けてきた。その目標は米本土に届く核ミサイルを持って米軍の介入を妨げ、第2次朝鮮戦争で勝つことだった。その金日成主席の野望を孫である金正恩総書記がほぼ実現したのだ。この目の前の脅威をなぜ我が国が直視しないのか。(了)