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田村秀男

【第1051回】デフレ圧力に沈む中国、米は宥和を急ぐな

田村秀男 / 2023.06.26 (月)


国基研企画委員・産経新聞特別記者 田村秀男

 

 中国経済にかつてないデフレ圧力がかかっている。不動産バブル崩壊のために需要が回復しないためだが、習近平政権は財政、金融両面での本格的な景気てこ入れに踏み切れないでいる。外資に依存する中国特有の金融制度が外国の企業や投資家による脱中国に直面し、大きな制約を受けているからだ。昨年2月下旬のロシアのウクライナ侵攻以来、高まる台湾関連を含む対中投資リスクからすれば当然の帰結である。米国のバイデン政権は西側の対中投資再開を導きかねない対中宥和策をとるべきではない。

 ●八方ふさがりの経済政策
 習政権10年の中国経済を牽引してきた不動産投資は、住宅価格の下落を受けて2022年は前年比10%のマイナスになった。都市部の若者(16~24歳)の失業率は今年5月、20.8%と、5人のうち1人以上が失業中だ。
 需給関係を反映するインフレ指標であるコア消費者物価(エネルギーと食料を除く)は2021、22年とも0.8%台で、今年5月は0.7%台に下がった。対照的に、慢性デフレ日本のコア物価上昇率は5月4.3%だ。中国は今や日本以上にデフレ圧力がかかっている。
 中国人民銀行の金融緩和は、量、金利とも実に小規模でしかない。原因は外貨準備減と通貨・人民元の対ドル安にある。中国の外貨準備は人民元資金発行の裏付け資産である。リーマン・ショック後は人民元発行残高のドル換算額に対する外貨準備の比率が100%を超えていたが、今は6割ぎりぎりまで下がっている。大幅に利下げすると大規模な人民元売りを招き、外貨準備を取り崩して買い支えるしかなくなり、悪循環に陥る。
 他方で、不動産開発業者への土地使用権収入が全収入の8割前後を占める地方政府の財政難が深刻だ。地方債発行で財源を確保できるはずだが、人民銀行による量的緩和が欠かせない。これも外貨準備の制約を受けている。習政権の経済政策は八方ふさがりなのだ。

 ●虚勢を張った習主席
 解はただ一つ。外貨準備を増やすことだ。そのためには経常収支黒字と対外負債を増やすしかないが、経常収支黒字の大半を占める貿易黒字増は現状維持がやっとである。残るは、対外負債、即ち外国企業からの直接投資と機関投資家からの証券投資だが、2022年末の残高は前年比で合計4750億ドル減った。22年の経常収支黒字約4000億ドルでは資本流出を穴埋めできない。
 習近平国家主席は先に訪中したブリンケン米国務長官との会見で「上座」に座るという尊大な態度を取ったが、虚勢であろう。実際には頭を下げてでも対米関係好転を図らなければ、外資が戻る糸口はないはずだ。(了)
 
 

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米側が遜っているように見える。経済がぐらついている現状で習近平は穏やかではない。若者層の失業率が高騰し景気も悪い。外国投資は欲しいが外貨が入らない。したがって、米国は強く出て譲歩を迫ることが可能だったはず。