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有元隆志

【第1054回】自民党はどこまで公明党に忖度するのか

有元隆志 / 2023.07.10 (月)


国基研企画委員・月刊正論発行人 有元隆志

 

 案の定、という結果となった。昨年末の国家安全保障戦略など戦略3文書の改定を受けて、武器輸出の緩和を議論してきた自民、公明両党の協議は「論点整理」の発表にとどまり、結論を秋以降に持ち越した。ロシアによるウクライナ侵略を受けて、ウクライナ支援に向けた日本の貢献度を高めるためにも、防衛装備品の輸出に関するルールの見直しを求める声が自民党内に高まったものの、「平和の党」を掲げる公明党の慎重姿勢に阻まれたからだ。

 ●ウクライナ向け武器援助先送り
 自民党内ではウクライナ戦争を受けて、防弾チョッキなど非殺傷の装備のみを送ってきたのを変更すべきだとの声が続出した。だが、連立与党の公明党に配慮し、4月の統一地方選前は議論を行わず、地方選後の4月25日に協議を再開した。
 協議の結果、報告書では防衛装備品の輸出の対象について、国際法違反の侵略などを受けた国への支援も含める必要性があるとした。日本が他国と共同開発・生産した装備品についても、第三国移転を認める意見が大半を占めたと記した。
 ただ、公明党の主張を入れて「装備移転三原則は国連憲章の遵守と国際紛争の助長の回避を具現化していることも確認された」との一文が盛り込まれた。毎日新聞は「平和憲法との整合性に問題がないことをアピールしたい公明の意向が働いた」と説明する。
 公明党に配慮しすぎると、現実との乖離は開く一方だ。陸上自衛隊出身の自民党の佐藤正久参院議員は3月6日の参院予算委員会で「台湾有事、日本有事で日本は兵器や弾薬をほかの国に求めないと全然足りない」と明かした。その上で「他の国の危機の時は(武器を)あげず、自分が危機の時はくれ、というのは通じるか」と訴えた。
 「ウクライナは明日の東アジアかもしれない」と繰り返してきた岸田文雄首相は、佐藤氏の指摘にどう答えるのか。政府は早急に結論を出すべきだろう。

 ●原発処理水めぐる暴言にも沈黙
 公明党の存在が政策を前に進める上で阻害要因となっているのは装備品移転だけではない。山口那津男代表は7月2日、この夏に政府が目指す東京電力福島第1原子力発電所の処理水の海洋放出をめぐって「間近に迫った海水浴シーズンは避けた方がいい」と発言した。
 山口氏は与野党から批判を受けると「(安全性の)説明のためには一定の時間も必要だ」と釈明したが、放出を見合わせるよう要求している中国などに迎合した発言と言われても仕方がない。
 岸田首相は山口氏を呼び出し、厳重に抗議すべきだったが何もしなかった。次期衆院選に向けて、公明党との選挙協力を重視するあまり、本来進めるべき装備移転を遅らせ、公明党代表の暴言にも沈黙しているようでは本末転倒といえよう。(了)