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細川昌彦

【第1061回】中国のガリウム輸出管理に過剰反応は禁物

細川昌彦 / 2023.08.07 (月)


国基研企画委員・明星大学教授 細川昌彦

 

 中国は米中対立の主戦場である半導体をめぐり対抗策を繰り出している。5月に米半導体大手マイクロン・テクノロジーの製品調達を禁止したのに続き、8月からは半導体材料にもなるガリウムやゲルマニウムを輸出許可の対象とした。米国などへの牽制が目的だ。
 米国は昨年10月に対中半導体規制を打ち出し、さらに強化しようとしている。日本も7月23日から先端半導体製造装置の輸出管理を強化した。オランダは9月から実施する予定だ。こうした動きを牽制する意図だ。

 ●不安を煽る報道に要注意
 まずは過剰反応せず、正確に事実を把握すべきだ。
 第一に、中国の措置はガリウム、ゲルマニウムを「輸出管理」の対象にするもので、不透明な運用を監視すべきだ。「輸出規制」との報道は制度の無理解からくる誤りだ。4年前に日本が韓国に対して輸出管理を厳格化した時も同様なことがあった。当時マスコミは「半導体の供給網に大打撃」と過剰に反応した。今回も「半導体供給網に混乱」として、必要以上に不安を煽るのは中国の思うつぼだ。
 第二に、表面的な中国依存に惑わされてはならない。中国はガリウムで世界の9割強、ゲルマニウムで7割弱を生産する。ただし生産シェアだけで判断するのは早計だ。ガリウムについては、中国からの輸入は日本の消費量の約4割で、たかだか50トン前後だ。リサイクル品も多く、消費量の4割前後を占めている。企業も現時点で在庫を十分確保している。
 「希少金属」と称することで誤解もある。ガリウムはアルミニウムなど他の金属を生産する際の副産物で、いざとなれば代替供給は出てくる。決して「希少」ではない。ゲルマニウムについても、埋蔵量は米国が1位で、中国よりも多い。採掘されていないだけだ。
 いずれも中国の環境規制が緩く、生産コストが安いので、中国に依存している。中国の措置で短期的には価格が高騰しても、中長期的には中国依存から脱却することになる。
 第三に、半導体材料としても誤解がある。「半導体の生産に必要な材料」とするのは正しくない。ガリウムは「次世代パワー半導体」の一つの材料だ。パワー半導体は半導体の一つのカテゴリーで、省エネの電力制御に使うものだが、これまでの材料であるシリコンに比べて電力損失を大幅に削減できる窒化ガリウムを用いた次世代パワー半導体が開発されている。半導体全体からみればガリウムの使用量はわずかで、むしろガリウムの多くはLED(発光ダイオード)などに使われている。従って「半導体供給網に混乱の恐れ」は明らかに言い過ぎだ。

 ●懸念すべきは先端技術の情報流出
 懸念すべき問題は別にある。中国は輸出管理の対象にすることで、輸出許可の申請があると最終用途、最終需要者を審査する。それを通じて次世代パワー半導体の先端技術の情報を入手する。これに対してどこまで情報開示をするかの方がよほど重要な問題だ。
 メディアはこうした問題を見逃している。中国の揺さぶりに対しては、表面的な数字で過剰反応せず、「正しく恐れる」姿勢こそ重要だ。(了)