公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

岩田清文

【第1066回】ウクライナへの武器支援に踏み切れ

岩田清文 / 2023.08.28 (月)


国基研企画委員・元陸上幕僚長 岩田清文

 

 かつての武器輸出三原則や、改定後の防衛装備移転三原則などの自己規制は、長年にわたり日本の安全保障政策において自らの手を縛り続けてきた。これを改善すべく、昨年12月に閣議決定された「国家安全保障戦略」では、海外への装備移転が日本にとって望ましい安全保障環境の創出のための重要な政策手段になるとの認識が示された。併せて、防衛装備移転三原則などの制度の見直しを検討することも明示された。
 この既定方針どおり今年5月、自民、公明両党は防衛装備移転三原則見直しのための協議を開始した。しかしながら、いまだ結論は出ていない。殺傷能力のある装備品の輸出を初めて認めるかどうかが焦点となっているようだ。自民党内には速やかに一定の結論を出すべきだという前向きな意見がある一方、公明党内には慎重な意見が根強い。この背景には、戦後長くはびこってきた一国平和主義の名残があると言ってよいだろう。

 ●一国平和主義の呪縛
 1991年の湾岸戦争の際にも、日本は金を出すが自衛隊は出さず、汚れ役を他国に委ねたために、世界から評価されなかった苦い経験がある。今日、民主主義対権威主義の戦いの最前線にいるウクライナが殺傷兵器を含む多くの兵器を世界に求める中、非殺傷性の装備のみに供与を制限する意見は、自分だけは手を汚したくないという姿勢を浮かび上がらせている。
 戦後日本の平和主義は、憲法の解釈や、それに由来する非武装中立論などにみられるように、わが国自らが何もしなければ災いは降ってこない、という極めて受動的、消極的そして空想的な平和主義であった。
 第2次安倍内閣において閣議決定した国家安全保障戦略においては、「国際社会の平和と安定及び繁栄の確保にこれまで以上に積極的に寄与していく」との積極的平和主義が基本理念とされた。また昨年末の新たな国家安全保障戦略においても、「国際協調を旨とする積極的平和主義を維持する」と継承されている。

 ●情けは人のためならず
 一国平和主義により殺傷兵器を供与できない日本の姿では、国際社会において名誉ある地位を占めることはできないだろう。一国平和主義から脱し、名実ともに積極的平和主義を具現し、日本自らの姿勢として、ウクライナを最大限支援すべきである。
 今日のウクライナは明日の台湾、日本につながる。民主主義体制の先陣として戦っているウクライナがロシアとの戦いに敗れれば、権威主義大国・中国が勢いづくことになる。日本の安全保障の観点からも、何としてもウクライナには勝ってもらわねばならない。
 「情けは人のためならず」。積極的装備移転が進むことを期待している。(了)