公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

髙池勝彦

【第1090回】最高裁裁判官の選任方法を再考せよ

髙池勝彦 / 2023.11.06 (月)


国基研副理事長・弁護士 髙池勝彦

 

 性別変更に関する最近の最高裁判所の判断など、その内容に国民の意識とかけ離れてゐると感じられるものが少なくなく、最高裁裁判官の資質や意識について疑問が感じられる。そこで、最高裁裁判官の選任について再考する必要がある。

 ●形骸化する内閣の指名・任命権
 最高裁裁判官は、長官とその他の裁判官14人で構成されてゐる(裁判所法5条)。うち、長官は、内閣が指名し、天皇が任命する(憲法6条2項)。それ以外の裁判官は内閣が任命し(憲法79条1項)、天皇が認証する(裁判所法39条3項)。ちなみに、下級審の裁判官は、最高裁の指名した者の名簿によつて内閣が任命することになつてゐる(憲法80条)。
 このやうに最高裁裁判官の選任に内閣が関与するのは、司法権と行政権のバランスを取るものであると説明されてゐるが、現在、この選任(指名又は任命)は、おほむね裁判官出身6名、検察官出身2名、弁護士出身4名、行政官出身(外務省、内閣法制局、厚生労働省出身者など)2名、法学者出身1名から選ばれている。裁判所、検察庁、弁護士会などの出身母体の推薦を受け、ほぼ自動的に選任され、内閣の選任権は形骸化してゐる。最高裁裁判官の名前を知つてゐる国民は多くない。
 司法の民主的統制の制度として、総選挙の際に行はれる最高裁裁判官の国民審査がある(憲法79条2項)。罷免を求める数が多数の場合にだけ罷免される(同条3項)。米ミズーリ州の制度をまねたといはれてゐるが、外国にもあまり例がなく、今まで罷免された裁判官はをらず、これも形骸化してゐる。
 米国の最高裁裁判官は、憲法の規定により、大統領が上院の承認を得て任命することになつてゐる。上院は、大統領が指名した候補者を司法委員会に呼び出し、激しい質問をぶつけ、調査を行ふ。大統領の所属政党によつて裁判官の指名に政治色が出ることになり、大きなニュースとなつて、多くの米国民は候補者が誰で何が問題となつてゐるのかを知る。

 ●国会の関与へ改憲が必要
 日本では、最高裁発足当初の昭和22年(1947年)3月に衆参両院議長、検事総長、弁護士会会長、学者などからなる裁判官任命諮問委員会が設けられ、そこで30人ほどの候補者が選ばれ、その中から15人が選ばれたことがあつたが、この制度は内閣の指名・任命権を拘束して内閣の責任が曖昧になるとして、翌年1月廃止された。
 この諮問委員会のやうな組織を復活させることも考へられるが、すると上記のとほり内閣の憲法上の権限と衝突することになり、それを避けるとすれば内閣の指名が優先することになり、おざなりの審理で形骸化してしまふ。
 そこで、最高裁裁判官の選任には国会又は衆院もしくは参院の一方の議決を要することにすれば、米国のやうに議論が活発化し、国民も誰が最高裁裁判官になるのかについて関心を持つだらう。
 しかし、これについては憲法改正が必要となる。現在わが国では憲法改正が焦眉の課題となつてゐるので、最高裁裁判官の選任方法について再考する良い機会である。(了)
 
 

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髙池勝彦 国基研副理事長
島田洋一 国基研企画委員兼研究員