植田和男総裁体制の日本銀行は外国人投資家を中心とする市場の投機勢力に押されている。このまま市場の後追いを続けると、急激な円安や金利高で回復基調の経済の失速を招きかねない。植田日銀は市場の思惑に動じない姿勢を示すべきだ。
●足元を見透かす投機筋
投機勢力が目をつけるのが2016年9月に始めた長短金利操作(イールドカーブ・コントロール=YCC)と呼ばれる日銀政策だ。長期金利を低めに誘導、安定させる狙いで、昨年のロシア軍のウクライナ侵攻までは大きな波乱はなかったが、エネルギー価格高騰と、世界的なインフレ懸念に伴う米連邦準備制度理事会(FRB)による大幅な連続利上げで情勢は一変した。日米の長期金利差の拡大予想によって円売り、ドル買いが進み、日本国債にも売り圧力が生じた。
黒田東彦前日銀総裁は昨年12月に長期金利上限をそれまでの0.25%から0.5%へ引き上げることを余儀なくされた。今年4月には植田氏が総裁に就任し、「大規模緩和継続」を宣言すると市場投機はいったん弱まった。しかし、経済メディアなどによるYCC修正観測に押されて植田総裁の発言はブレ始めると同時に、投機が息を吹き返した。日銀が7月28日に長期金利上限を1%に引き上げると、経済メディアがYCC撤廃観測を盛んに流す。追い込まれた日銀は10月31日の政策決定会合で長期金利上限1%を「めど」に修正し、事実上1%超容認に至った。
国債市場規模は巨大だ。国債の売買規模は9月で3929兆円、うち外国人は43%超の1696兆円を占め、メガバンクや生損保など日本の機関投資家を圧倒している。外国勢は長期国債投機に加え、短期国債を使って円投機に及んでいる。円の外国為替取引は国内外合計でひと月5000兆円を超える。日銀の国債買い増しは前年同月比で50兆~60兆円が限度で、投機に対抗するには弾薬不足である。後手に回る日銀は弱い足元を見透かされている。
●円安にたじろぐな
どうすべきか。市場への日銀介入が確実なら、投機筋は損失リスクが少ないと見て賭けるのだから、日銀は大規模緩和の基本路線を断固堅持しつつ、時には思い切って長期金利の変動を放置するのも手だ。FRBの利上げ打ち止めが確実になれば、投機の潮は引く可能性もある。
円安には、たじろがないことだ。世界最大の債権国日本は円安の下、海外資産は大きく増え、企業収益も製造業を中心に大幅増だ。それを賃上げ、国内投資に結びつければ、脱デフレは間違いない。(了)