公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

本田悦朗

【第1109回】ドイツに抜かれた(?)日本経済

本田悦朗 / 2024.01.22 (月)


国基研企画委員・元内閣官房参与 本田悦朗

 

 2023年に日本の名目GDP(国内総生産)がドルベースでドイツに抜かれ、世界4位になることが確実となった。しかし、国と国は競争しているわけではないので、経済規模の国別ランキング自体に意味がない。真の問題は、ドイツは着実に経済が成長しているのに対し、日本はバブル経済崩壊後、「失われた30年」と言われるように経済がほとんど成長せず、賃金も伸びないといった現実に直面し、将来の日本社会に対して希望を持てるのだろうか、ということであろう。

 ●名ばかりの順位逆転
 日本とドイツの名目GDP(米ドル建て)を比較する際には、①ドイツはウクライナ戦争等によって、エネルギー価格の高騰など日本よりも遙かに物価上昇率が高く、「名目」GDPの数字が大きく出る②ドイツで使われている欧州統一通貨ユーロに比べ、円は対ドルで円安傾向が顕著で、米ドルで表示した場合には日本のGDPは小さく出る―ことに注意が必要である。なお、直近のドイツ経済は好調とは言えず、物価の影響を除いた実質GDP成長率は昨年0.3%減と、3年ぶりのマイナス成長となっている。
 日本とドイツはどちらも製造業が強いといった経済構造が類似していると言われてきた。事実、日本は1981年以降、ドイツも2001年以降、ともに経常収支の黒字が続いている。経常収支は、輸出と輸入の差である貿易収支と、これまで海外に投資してきた果実(利子・配当所得)の収支の差である所得収支によって成り立っている。貿易収支はGDPの構成要素だが、所得収支は国内で付加価値が発生していないので、GDPの構成要素ではない。
 ドイツは対内・対外投資を拡大してきた一方で、製造業の拠点を国内に維持して輸出を拡大し、貿易収支黒字が経常収支黒字の大半を占めている。これには、①ユーロの為替レートは全ユーロ参加国の貿易の平均がベースになっているので、競争力の高いドイツに有利に働く②ユーロ参加国や欧州連合(EU)加盟国の拡大で為替リスクや関税負担が軽減される―ことが大きな影響を与えている。
 他方、日本ではエネルギー価格の高騰による輸入増加が顕著であるが、それだけではなく、原子力発電所の運転停止に伴い化石燃料の輸入が増加し、アベノミクス開始まで長らく円高が放置されてきたために製造拠点の空洞化が進み輸出が伸びにくくなっている。その結果、2011年以降、我が国は貿易収支が赤字に転じた。その一方で所得収支が経常収支黒字の大半を占めているが、所得収支はGDPに寄与しないのである。

 ●無意味な国別ランキング
 経済政策の目的は、国民生活の豊かさを実現することであり、自然災害を含む有事の際の対応などで活動の財政的基盤を提供することである。国民生活を豊かにし、有事にも対応できる強靱な経済成長を実現するためには、国民の明るい将来展望と積極的な行動が必要である。コロナ禍からの回復の過程で、これまでの硬直的な経済から賃金や物価が緩やかに上昇する柔構造の経済基盤が醸成されつつある。意味のない国別ランキングに一喜一憂してはいけない。(了)