韓国の尹錫悦大統領と与党「国民の力」トップの韓東勲非常対策委員長には「原罪」がある。2人とも政治家になる前は特捜部検事だった。著名なジャーナリスト趙甲済氏は2月上旬、私に「検事時代の2人は法と正義に基づいて巨悪に立ち向かった法律家ではなく、法を使って反対派を弾圧する法技術者だった。この2人を批判しない大多数の韓国の保守派は真の保守派と言えない」と語った。
●左派政権の意向受け無理な起訴
最近ソウル地裁が二つの無罪判決を下したことを受けての発言だった。1月26日には、47の罪で起訴されていた梁承泰・元大法院長(最高裁長官)が全ての訴因で無罪とされた。2月5日には、17の罪で起訴されていた李在鎔・三星電子会長が同じく全面的に無罪とされた。この2件の捜査と起訴は左派の文在寅政権時代に行われ、責任者はソウル中央地検長だった尹氏であり、捜査を指揮したのは第3次長検事だった韓氏だ。
当時、尹氏と韓氏は朴槿恵、李明博の二人の大統領経験者とその政権の幹部を次々逮捕、起訴しただけでなく、それまで検察が捜査対象としたことのなかった現・元裁判官100人余りを尋問し、前最高裁長官を含む十数人の裁判官を逮捕、起訴した。
きっかけは文在寅政権成立後、左派の判事らが、保守の朴槿恵政権時代に裁判所内の人事で自分たちはブラックリストに載っていて不利な扱いを受けたと言い出したことだった。しかし、3回行われた内部調査でリストは出てこなかった。
ところが、文在寅大統領が2018年9月、「司法ろう断(私物化の意味)疑惑を究明しなければならない」と語るや、大統領に任命された金命洙最高裁長官が「(検察の捜査に)積極的に協力する」と応え、尹氏、韓氏らの指揮の下で50人の検事が5カ月かけて大々的な捜査を行った。
やっと見つけ出したのが、朝鮮人戦時労働者への賠償を求める裁判を遅延させるように当時の朴槿恵大統領から働きかけを受けたとする、裁判介入事件だった。しかし、朴槿恵政権は外交的な観点から、賠償を認めたら日韓条約違反と国際的に批判されるという意見を伝えただけだった。韓氏はよほど自信がなかったのか、なんと47の罪があると起訴した。どれか一つは有罪になるだろうと思ったのではないか。しかし、全部無罪だった。
●批判しない保守勢力
李在鎔・三星電子会長は父親からグループの経営を委譲される過程でグループ内の二つの企業の合併を不正に行ったと起訴されたが、それも無罪になった。実はこの判決は朴槿恵元大統領の裁判と関連していた。朴槿恵氏への有罪判決では、李在鎔氏が朴大統領の友人の娘に乗馬用の馬を貸し付けたことが、この不法な合併を認めてもらうための賄賂とされた。合併が法的に問題ないのであれば、朴槿恵氏有罪の前提が覆る。
韓国の法治の実情をさらけ出した今回の二つの判決を受けて、朝鮮日報、東亜日報などの保守系紙や多数の保守政治家と知識人は文在寅前大統領と金命洙最高裁長官だけを批判し、尹氏、韓氏批判を控えている。(了)