公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

有元隆志

【第1134回】「失われた4か月」を取り戻せ

有元隆志 / 2024.04.08 (月)


国基研企画委員・月刊「正論」発行人 有元隆志

 

 派閥の政治資金規正法違反事件に絡み、自民党は39人の所属国会議員を処分した。岸田文雄首相(党総裁)はこれでこの問題に一区切りをつけたい意向だが、党内に生じた亀裂を修復するのは容易でない。事件が大きく報道されるようになった昨年12月1日から今日まで、「失われた4か月」を招いたのは岸田首相その人だからだ。

 ●「三つのJ」
 ある自民党閣僚経験者は岸田首相のことを「三つのJへの愛着がことさら強い」と評する。「自分(Jibun)」「自派閥(Jihabatsu)」「地元(Jimoto)広島」のことだ。
 この閣僚経験者は、岸田首相の他人の心情への関心の低さは処分発表の仕方にも表れていると語る。4日夜に離党勧告された「清和政策研究会」(清和会=安倍派)座長の塩谷立・元文科相らは、誰からも直接通知を受けることなく、処分内容が書かれた1枚の一覧表を受け取っただけだった。
 処分を不服とし再審査請求を検討すると表明した塩谷氏は、岸田首相から「自民党の窮状からやむを得ず処分する」との一言があれば、「『はい、分かりました』と言ったかもしれない」と語った。「1月に東京地検特捜部が捜査を終結した時点で、岸田首相が塩谷氏に会って離党を求めていたら、このように亀裂が深まる事態にはならなかった」と語る自民党議員は少なくない。首相は危機管理能力の欠如をさらけ出した。
 自民党では2005年に郵政民営化法案への造反をめぐり、時の小泉純一郎首相が主導し60人規模の処分が行われ、法案に反対した綿貫民輔元衆院議長らは除名された。小泉氏は衆院の解散・総選挙に踏み切り、反対派には「刺客」の候補を立て大勝した。是非はともかく小泉氏には、郵政民営化を「改革の本丸」と位置付け、抵抗があっても実現しようとする明確な目標があった。
 対照的に岸田首相は、世論の理解を得るために厳しい処分にしないといけないという受け身の姿勢に終始した。しかも、処分内容をめぐり党執行部内が対立。幹事長と参院議員会長が別々の部屋に分かれ、そこを岸田首相が行き来するという事態を招くなど、求心力の低下も露呈した。

 ●危機管理能力の欠如
 この4か月間、本来岸田首相が先頭に立って取り組むべきは憲法改正をはじめ、安定的な皇位継承問題、海外への防衛装備移転、ネットワーク上の通信を常時監視する「能動的サイバー防御(アクティブ・サイバー・ディフェンス)」の整備であった。
 岸田首相がこれらの課題に指導力を発揮することはなく、政治とカネの問題への対応にのめり込んでしまった。9月の自民党総裁選を控え、再選を目指す岸田首相に残された時間は少ない。危機管理能力のない政権に憲法改正などの重要課題をやらせてはいけないとの声は強まっている。岸田首相には現状をしっかり認識してほしい。(了)