公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

奈良林直

【第1153回】不合理な敦賀原発の活断層論議

奈良林直 / 2024.06.10 (月)


国基研理事・東京工業大学特任教授 奈良林直

 

 原子力規制委員会は6月6、7の両日、福井県敦賀市の日本原子力発電敦賀原発2号機の活断層に関する現地調査を行った。敦賀2号機は再稼働へ向けた安全審査が新規制基準に従って行われている。審査は敷地内の地層のひび(破砕帯)が活断層であるかの議論が延々と続き、審査書類の無断修正(規制委は改ざんと判断)や、報告書の1300か所の記載修正に伴う審査中断などもあり、審査が遅れていた。規制委の石渡明委員は、6月の現地調査に基づき、7月をめどに活断層かどうかの判断をするとしている。しかし、審査はまだ、議論が嚙み合っておらず、政府の基本方針である「最大限の原子力の活用」に反する拙速な判断は避けるべきだ。

 ●原子炉の安全性は向上している
 敦賀2号機をめぐる現在の議論は、原子炉建屋から300メートルの距離にある活断層の「浦底断層」から枝分かれした「D1破砕帯」と、活断層の可能性が否定できない「K断層」が繋がっているかどうかがポイントである。筆者は、日本原子力学会の「断層の活動性と工学的リスク評価」と題する調査専門委員会の主査を拝命し、2014~17年の3年間の活動を経て報告書を取りまとめ、公表するとともに、石渡委員にも送っている。
 その骨子は、①地下20~30キロから地表まで貫く主断層(震源と繋がる活断層=震源断層)と、それが枝分かれした分岐断層、さらには副次的にできた浅い副断層には違いがある②たとえ震源断層が原子炉建屋の直下にあっても、原子炉建屋への影響は、断層を挟む幅約2メートルくらいの帯状の領域であり、複数系統ある緊急炉心冷却システムのうち1系統以上は必ず生き残り、炉心冷却がなされるので、工学的安全対策により実質的なリスクは下がる―というものだ。
 熊本地震の際に、東海大学の校舎の下に活断層があり、床にひびが入ったが、鉄筋コンクリートの建屋は、原形をほぼ留めていた事例もある。さらに、議論になっているD1破砕帯は正断層(引っ張られることで下がる断層)、K断層は逆断層(圧縮力を受けてせりあがる断層)で、変位方向が異なるので、繋がっていないというのが、広島大の奥村晃史教授ら専門家の意見である。

 ●「ひび割れ」にこだわる意味はない
 再稼働へ向けた現在の審査は、2013年に定められた新規制基準に沿って行われている。そのなかで最も時間がかかっているのが、敷地内の活断層の有無や断層が変位した際の液状化対策など、地震と地盤関係の審査だ。工学的に考えれば、震源断層の有無が重要であって、枝分かれしたひびまで活断層かどうかを議論することにどれだけの意味があるのか。
 米国の原子力規制委員会は「活動5原則」を明示し、国民に負担をかけないように「規制の効率」を重視している。一方、我が国の規制委に効率重視はない。そのため、青天井のコストがかかる安全対策や10年を超える長期審査となり、行政手続法により定めた「概ね2年の審査」も守ることができていない。(了)