公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

石川弘修

【第1161回】慰安婦性奴隷説と一人で闘った米学者

石川弘修 / 2024.07.16 (火)


国基研理事兼企画委員 石川弘修

 

 国家基本問題研究所(櫻井よしこ理事長)は7月11日、海外で今なお根強い慰安婦性奴隷説を否定する学術論文を執筆し、米国の学界で事実上孤軍奮闘している米ハーバード大教授ジョン・マーク・ラムザイヤー氏に日本研究賞を授与した。また、日韓間に横たわる加害・被害者史観を脱却する研究結果を発表した東京都立大学名誉教授・鄭大均氏に日本研究特別賞を贈った。

 ●年季奉公契約だった
 ラムザイヤー教授の受賞作品は、学術誌International Review of Law and Economics(IRLE)に掲載された論文や批判者への回答をまとめた「慰安婦性奴隷説をラムザイヤー教授が完全論破」(ハート出版)(2023年12月発行)。
 欧米の学界や国連などで流布されている慰安婦性奴隷説は、先の大戦中、日本の統治下にあった朝鮮半島で少女を含む若い女性が大量に強制連行され、日本軍人専用の慰安所へ送られ、奴隷のように扱われて性行為を強要されたというものだ。これに対し、ラムザイヤー教授は多くの日本語文献に目を通し、慰安婦の実態は「当時の日本で公認されていた娼婦と同じで、貧困層の親が周旋業者から前払い金を受け取り、娘の慰安婦就業を認める年季奉公契約を結んでいた」ことを明らかにした。多くの女性は前払い金の返済完了、或いは契約期間の満了で慰安所を去った。
 しかし、2021年初め、同教授がIRLEに年季奉公説を発表したことが日本のメディアに報じられると、韓国や米国の歴史学者が猛反発、IRLEに論文撤回を求めた。賛同する学者は数千人にも達したという。中には殺人を予告するメールまであった。反発が広がった理由について、同教授は、①誰も日本語資料を読まず(読めないのが実情と思われる)、実態を把握していない②軍の関与、性奴隷の疑いが独り歩きし、人権派の強い反発を呼んだ―と指摘する。

 ●背景に学界の左翼偏向
 慰安婦問題に対する米国と一部欧州、韓国の大学教授、歴史研究者たちの強い反発の背景には、政治的偏向があり、とりわけ米国の有名大学の人文系学部で偏向が際立つ。2018年の調査では、全米51の人文系学部の教授陣の支持政党は、共和党1に対し民主党は10という大きな開きがあった。イデオロギーの多様性どころか、多くの場合、極度に左に偏っており、異説に対する寛容さを失っていくのが常だとラムザイヤー教授は指摘する。
 また、自ら慰安婦を強制連行したという吉田清治氏の証言が虚偽だったとして、2014年に朝日新聞は慰安婦報道を訂正し謝罪したが、それが不十分で海外には届かなかったのか、或いは受け取り手の頬かむりなのか、との疑念も残る。
 ラムザイヤー教授が一番気落ちしたのは、撤回を求める署名者の中に、友人と思っていた人の名前を見つけた時だった。眠れない夜もあった。それだけに、友人の励ましは有難かったという。「正しいと思ったことは決して撤回しない」という自らの信条を貫けるのも、米国や日本の友人からの励ましがあったからだと語る。この言葉に、国基研が同教授に日本研究賞を授与した意義を強く感じた。(了)