米国でトランプ政権が復活する可能性が高まっている。また、トランプ氏暗殺未遂事件の影響などで共和党員の投票率が上がると見られる中、民主党の大統領候補選びの混乱もあって、議会の上下両院も共和党が多数を占める可能性が強まってきた。従って、第1次政権時以上に、トランプ共和党の目指す政策が高スピードで実現されていくと見ておくべきだろう。そこで、トランプ戦略の狙いは何か、日本はどう対応すべきなのかについて、いくつか重要な点を取り上げたい。
●ウクライナ停戦で「新・悪の枢軸」崩す
まず「脱炭素」原理主義からの脱却である。トランプ氏のみならず共和党は一般に、人間活動で排出される二酸化炭素が気候変動をもたらすという議論を非科学的として受け入れない。過剰な脱炭素規制で米企業の競争力が落ちると、環境問題を気にしない中国企業がシェアを伸ばし、国際政治経済に様々な悪影響を与えるという判断もある。電気自動車(EV)推進政策は中止される。バイデン時代に行政命令で課された規制の撤廃により、米国の石油、天然ガスの生産、輸出が増える。石油関連の対外投資規制もなくなり、中東では米サウジアラビア関係が改善する。価格低下は日本にとって歓迎すべきことだろう。
テロリストを資金面で支えるイランに対しては、全面的な締め付け政策に回帰する。日本が石油の9割以上を輸入する中東の安定に資するだろう。イランの石油を輸入する国は、米国市場から締め出す方針も明らかにしており、現在イラン産石油の3分の2を購入する中国が最も影響を受ける。
ロシア・ウクライナ戦争は早期停戦が正解というのがトランプ陣営の考えであり、すでに調停の動きに入っている。あの戦争が続く限り、ロシア、中国、イラン、北朝鮮の「新・悪の枢軸」は結束を強め、自由主義圏への悪影響が拡大する。停戦を実現したのち、イランは徹底的に締め付け、中国はハイテク分野で締め上げ、北朝鮮は表向き友好関係を保ちつつ押さえ込み、ロシアとは第1次トランプ政権時代の関係に戻していく、というのが枢軸4カ国に対する基本方針となろう。
ウクライナでロシアを敗北させないと中国が台湾侵攻の誘惑に駆られるという議論に対してトランプ陣営は、出口戦略がないままウクライナに兵器を供給し続けることで、台湾防衛に要する兵器の在庫が手薄になりつつあり、その方が中国に誘惑を与えると反論する。
●日米台軍事演習に期待
台湾有事に備えた抑止力強化について、トランプ陣営からは、日米台合同軍事演習の実施を含め、日本のより踏み込んだ軍事的貢献を求める考えが打ち出されている。トランプ政権に尻を叩かれるまでもなく、「台湾有事は日本有事」であり、日台の軍当局者同士の直接交流を肝とする「日本版・台湾旅行法」(米国は、米台に関し2018年に制定済み)などを早急に法制化せねばならない。
トランプ陣営は、将来の電源の柱は次世代原子炉の小型モジュール炉だとしている。日本も、エネルギー確保の参考にすべきだろう。(了)